富士山の手前、松飾りの枝に隠れてほんの少し見える板塀の建物は、陸奥白河藩の上屋敷(③)。今なら帝国ホテルの近辺です。帝国ホテルといえば、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(1867~1959)が旧本館の設計に関わったことで知られています。建築家のライトさんは、帝国ホテルの設計に取り掛かる以前から、その優れた審美眼により浮世絵を日本でも買い集めていました。それらを購入したのがスポルディング兄弟です。そしてのちにボストン美術館の「スポルディング・コレクション」となりました。この浮世絵を描いた絵師、広重さんが知ったら、さぞかしびっくりすることでしょう。
お正月とあって、空には奴凧(④)をはじめ、南風に乗ったいくつもの凧があがっています。中には糸が絡んでいるものも(⑤)。そして衝羽根(つくばね)と呼ばれる羽根つきの羽根(⑥)が勢いよく空に舞っています。この羽根の丸い部分は、無患子(むくろじ)という植物の種を用いています。「子が患わない」という意味合いから、羽根には無病息災、厄除けの願いが込められているのだとか。
左側の羽子板に描かれているのは竹で、その横に門松(⑦)。松の芽も描かれていますが、これは「芽でたい」とかけた広重さんの遊びかもしれません。もう一方の羽子板は、役者絵のようです(⑧)。尾上梅幸さんでしょうか。これで三役揃って「松・竹・梅」。
「こいつぁ~、春から縁起がいいわぇ!」
【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプ ロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。
【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。
「ビゲロー・コレクション」と「スポルディング・コレクション」
ボストン美術館は多数の浮世絵版画を所有。多くは、1911年に米国の大富豪ウィリアム・スタージス・ビゲローが寄贈したコレクションで、美術品を含めると数万点に上る。また、1921年には同じく米国の大富豪スポルディング兄弟が約6,500点の浮世絵を寄贈。このコレクションは、一般公開しないという寄贈条件により、今も色鮮やかに保たれている。
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