2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年5月12日

 この論説は、米国の伝統的な安保関係者がプーチンおよびロシアをどう見ているかをよく表しています。プーチンが米国を敵視し、米国の立場を世界のあちこちで悪くするために活動していると指摘しています。シリアをめぐる行動のほかに、プーチンの最近の東部ウクライナでの行動、グルジアでの行動、アフガンやリビアでの行動を例に挙げています。この論説には出ていませんが、バルカン諸国での行動や中距離核戦力(INF)全廃条約違反、反NATO、反EUの策謀もあります。米側が論説の言うような認識を持ったとしても、当然ではないかと思われます。

 しかし、プーチンが米国を敵視し、世界中で反米を主たる動機として活動していると考えるのは必ずしも正確ではありません。

革命的なものを嫌悪するプーチン

 レジーム・チェンジ、特に民衆デモによるレジーム・チェンジ、カラー革命的なものにプーチンは嫌悪感を持っており、自分もそういうことでやられかねないという恐怖を持っており、それが大きな動機となっているように思われます。アサドに対するアラブの春を契機とする反政府デモ、ウクライナでのヤヌコビッチ追い出しデモ、カダフィの追い出しなどはプーチンが忌み嫌うものであり、それがプーチンの行動を最も強く規定しているように思われます。ラブロフ外相が「独裁者を追い出した後、状況が良くなった例はほとんどない」と言っているのも、同じ考えから出ています。

 プーチンの国際場裡での活発な活動は、ロシア人の民族主義にアピールするために世界で影響力を持っているロシアを演出すること、それが国内での経済困難から目をそらさせることにつながることを、2018年大統領選挙を念頭に、考えている可能性が高いでしょう。

 プーチンの動機の説明については諸仮説があり得ますが、トランプも「今は米ロ関係は冷戦後最悪」としており、大統領選挙へのロシアの介入が捜査・調査の対象になっている中、米ロ関係改善はほど遠いと見ておいてよいでしょう。シリアについての意見の違いは米ロの溝をさらに深くしたと思われます。ただ、今のロシアはソ連に比較すると弱い国であり、冷戦を戦う力はありません。

 トランプは「ロシア好き、中国嫌い」の印象がありましたが、シリアに関する安保理決議にロシアは拒否権を行使し、中国は棄権しました。トランプはそれを評価しています。トランプは、中国は為替操作していないなどと、選挙運動中とは全く逆のことを言いだしています。トランプの中ロへの好悪感情が逆転すれば、それはそれで日本には問題が出てくる可能性があります。

  
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