2024年12月21日(土)

Wedge REPORT

2017年5月13日

お茶の潜在可能性は1000%

 「お茶には多様な価値がある。あまり商品だけに重きを置きたくない」と話す伊川さんが今、進めているのが、企業とのコラボ。「企業も交えてこういう畑をきれいに保っていけば、環境面の価値も出てくるし、社員の健康を保つという福利厚生にも役立つ」と、企業のメンタルヘルスケアとして茶畑で農業体験をする活動を、昨年10月から始めている。今後は、臨床心理士、保健師、看護師などの協力も得ながら、内容をブラッシュアップしていくという。

 お茶のセラピー効果にも注目している。園芸活動を通して心身の健康を回復する園芸療法としてのお茶栽培に加え、さまざまな種類のお茶を飲んで楽しめば「マインドフルネス」にもなると、お茶を使ったセラピーの体系づくりに取り組んでいる。

 「お茶を使って皆が健康になるということと、農業の可能性をいろんな分野に広げるということ。この二つをやっていくことで地方創生のきれいなひとつのひな型ができたらと思っています」

 都市部からの茶摘み体験呼び込みで観光に、小学校への出前授業など教育に、加えて先に述べたように林業、福祉、医療など、すでに各分野に進出している。さまざまな社会的課題の解決に農家が能動的にかかわっていく端緒を開きたいと考えているのだ。

 国内を見渡すと、お茶の生産面積は微減を続け、価格も2005年以降低迷している。そんな中、健一自然農園はずっと右肩上がりを続けている。売り上げの伸びは毎年16%ほどだという。経営は順調だが、既存の市場だけに満足してはいない。

 「自然栽培のお茶はものすごく少ない。無農薬のお茶でも全体のわずか5%のみ。そんな中で競争しても意味がない」ときっぱり。

 限られたパイを奪い合うのではなく、潜在需要を掘り起こすことで可能性を広げるつもりだ。無農薬栽培でないお茶を飲んでいる人をターゲットにするだけでなく、

 「お茶を飲んでいない人も入れると、お茶の潜在性は300%ほどに広がる。海外も入れれば1000%くらいいくのではないか」と熱く語る。

 「奈良はいろんなものが生まれた土地。奈良から人と自然が調和する農法を広め、社会のいろんな人と連携したい」

 大和高原から吹く新風が、お茶をめぐるビジネスの形を大きく変えようとしている。

  
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