2024年4月24日(水)

ビジネスパーソンのための「無理なく実践!食育講座」

2017年8月1日

コーヒーや果汁を加えたものは「牛乳」ではない

 牛乳も(本来は)きわめて単純な食品だ。乳牛から絞ったままのものを生乳というが、店頭に並ぶ商品としては「生乳そのまま」ではなく、加熱殺菌し、多くの場合は均質化(ホモジナイズドという)する。それ以外、脂肪やカルシウムなどの栄養成分を加えたり、取り除いたりしてはならない(それを「牛乳」と表示してはならない、という意味)。栄養成分だけではなく、水分でさえも足したり抜いたりしてはならない。

 もちろん、コーヒーの風味を加えて飲みやすくしたり、果物のエキスを加えて甘くしたりしてはならない。昔は「コーヒー牛乳」とか「フルーツ牛乳」という商品があったが、今は「牛乳」と表示してはならず、これらは「乳飲料」になる。生乳に加えるものが、脱脂粉乳やバターなど「牛乳を原料とした成分」である場合には、「加工乳」と表示できる。

 個人的には、こんなに厳密に分類しなくても、生乳の割合が一定以上あるのであれば「コーヒー牛乳」や「フルーツ牛乳」でもいいように思うのだが、牛乳の表示はけっこう厳しく制限されてある。生乳に近いものから順に「牛乳」→「加工乳」→「乳飲料」となる。

牛乳と豆乳は「似て非なる」食品

 一方で、「乳」という表示ができるもので、牛乳とはほど遠い食品がある。それは豆乳。栄養価が似ているところもあり、何よりも「見た目」がそっくりだ。そこで「豆(大豆)からできた乳」ということで豆乳と表示される。

 栄養成分的に、三大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)にはそれほど大きな違いはない(専門家から見れば、もちろん、違うのだが・・・・。興味のある人がいたら『食品成分表』【※1】で確認してほしい)。最も大きな違いはカルシウムだ。15mg(豆乳)と110mg(牛乳)と、ケタが違う。

 私たち日本人(平均)の食事内容は栄養的にかなり優れている。しかし、改善しなければならない「大きな短所」が2つあり、それは「食塩の過剰摂取」と「カルシウムの不足」だ。カルシウムを手軽に摂取できる食品として牛乳があるのだが、豆乳はその代わりにはならない。

 このコラムでたびたび述べているように、食品は「栄養成分でのみ評価」すべきではない。豆乳には、たとえば「食物繊維が豊富」など、牛乳にはない長所もある。味覚も違うので、牛乳よりもおいしいと感ずる人もあるだろう。つまり、当然のことながら、豆乳と牛乳はまったく「別の食品」だ。であれば、誤認することのないように「乳」という文字を使わないほうがいいのではないか。

 ときどきは、豆乳は「植物性なので健康にいい牛乳」などと勘違いしている人もあるようだ。そもそも「植物性食品が動物性食品よりも健康にいい」という根拠は何もない。

アレルギーの可能性のある食品の表示は厳密に!

 私が、ここまで「豆乳」の名称にこだわることの一つにはアレルギーの問題がある。牛乳も大豆もきわめて注意が必要なアレルギー原材料だ。牛乳は大丈夫でも豆乳はダメな人もあるし、その逆もある(両方ともだめな人もある)。かといって「乳」と書いてあればすべて避けなければならないわけでもない。アレルギー症状のある人は十分に注意したい。

 このように、アレルギー表示は、あらゆる食品表示の中で、もっとも正確にかつ厳密に運用されなければならないものだと、私は考えている。紛らわしい表示は避けるべきである。

 先に書いたように、原料を同じくする乳製品でさえ「牛乳」「加工乳」「乳飲料」と区別してある。また、果汁飲料も、「ジュース」と表示できるのは果汁が100%のものに限り、そうでないものは「果汁入り飲料」と表示しなくてはならない。このように、厳密に定められているのには、栄養的配慮、アレルギー問題、優良誤認など、様々な問題があるからだ。

 先述したように、豆乳が牛乳に比べて質の劣る食であるわけではけっしてないが、牛乳とは似て非なる大豆の汁に「乳」と書くのは好ましくない。購入する人も、見た目が似ているからといって、「牛乳の代わりに」豆乳を選択すべきでない。

 鶏卵も牛乳も、自分の体調や暮らし方に応じて、そして経済状態を十分に考慮して、賢く選択しよう。

【※1】http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1380315.htm

  
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