まず手を動かしてみる
2つ目は、「手を動かす」促しです。
思い悩むより、「まず書いてみよう」という声をかけます。
分かっていること、思いついたことを書いてみよう、と。「正解」を書くのではなく、いま自分の目に見えていること、頭にあることを書き出すように促します。
目で見えるようにすれば、気づくことが出てきますし、関係づくりもやりやすくなります。考えることが上手な人は、えてしてメモの使い方が上手です。
反対に、考えることを苦手にしている人ほど、なかなか書こうとしません。面倒がっているのではなく、書くということのハードルを自分で上げているようなのです。
書くというのは、内容が定まったあとにすること、まとまってから行うこと、という感覚を持ってしまっている様子がうかがえます。
授業中にノートをとる際、先生が板書したことだけをきれいに書き写してきたタイプといえばイメージがわくでしょうか。
こういう人に「とにかく書いてみよう」と口を酸っぱくしても、なかなか動きにつながりません。心のハードルを下げてあげる必要があります。
たとえば「後で使わなくてもいいから、ひとまずメモしてみようか」とか、「代わりに書いてあげるから、頭に浮かぶままにしゃべってみて」といった具合です。
「なるほど」「他にはどうかな?」「お、いろいろ出てくるね」といった相づちを打ってあげるのもハードルを下げるのに効果的です。
そうやってどうにかこうにか書き出すことができたら、「どれが組み合わせられそう?」と問いかけ、考えのプロセスを前に押していきます。
「答えのない社会」を生き抜く力を
3つ目は、「分析する」とはどういうことかを示してあげること。
分析するとは、いまある物事、ことがらをいくつかに分けることです。
複雑で理解するのが難しく見えたことがらが、分けていくことで、一つ一つは限られた内容ですっきりとしたものになっていきます。
【材料】は出してみたけれど、どう組み合わせたものかさっぱり頭が働かないという場合、たいていは【目標】や【材料】の「何」が、複雑な内容になっているものです。
たとえば、「生徒の得点力を伸ばすのに効果的な教え方とはどういったものだろう」という目標設定をしたとしましょう。おそらくこのままでは有効な議論は進まないと思います。
というのは「得点力を伸ばす」とはどういうことなのか、どんなケースが想定されているのか、どうなれば「伸びた」と言えるのか、といったことが非常にあいまいだからです。
また「効果的な」とは何を基準に、どう判断するかもはっきりしませんね。
ですから、この例の場合、目標を分析することからスタートすることになります。
考える材料を前に、う~んと止まってしまっている時は、「分けてみたらどうなるかな?」と問いかけてみましょう。
「分析する」と聞けば難しく感じてしまう人も、目の前のことがらをいくつかに分けてみるだけなら、やってみようという気も起きます。分けてみて、「何」がくっきりとらえられたら、考える手順に乗って進んでいけばいいのです。
いかがでしょうか。
お子さんや部下に対して、「もっと考えなさい!」とただ投げつけるのではなく、どうすれば「考えられるのか」を導けそうでしょうか。
くり返しになりますが、「考える」とは頭の中でう~んとうなることではなく、「手順を進めていくこと」だということを理解していただきたいと思います。
考える力は「答えのない社会」を生き抜く力です。
「答えのない社会」に立ち向かうのに、特別な能力が求められているのではありません。
手順を踏んで考えることができるなら、だれしも立ち向かっていけるのです。
あなたが手を差し伸べている人にも、考える力をぜひ授けてあげてください。
次回は、「人を育てる『観察の力』」についてお話ししたいと思います。
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