最後に「お客様が『まさにいま欲しかった商品だよ』と、欲しいと思っていただけるような伝え方を見つける上で、お持ちの情報のうちで役に立ちそうなことには何がありますか?」と問いかけます。
「考える」とは、「知識や経験などに基づいて、筋道を立てて頭を働かせること。」でした。
頭を働かせる【材料】となる「知識や経験」には何があるのか、意識するための問いです。
彼はしばらく思いめぐらせた後、「ベテランの職人さんが定年間近になっていること」「思うように新規採用ができていないと聞いていること」「取引先の業績好調で受注増が続いていること」などを挙げてきました。
ここまで分かれば、いよいよ目標に向けて考えていきます。
何をするのかといえば、今あるものを組み合わせ、関係づけていくのです。
「筋道立てて頭を働かせる」とは、どこかにある「正解」を探しに行くことではなく、今あるものを組み合わせるとこういうことが判断できそうだなと、頭を働かせていくことです。
また、すでにあるものを見て、この状態になるにはその前にこんなことが起きていたのだろうな、とさかのぼって判断することも含みます。
先に進むか、前に戻るかの違いで、頭の使い方としては同じことです。
これが、「考える」ということです。
受験生にとっての「考える」も同じです。
「どんな問題を解こうとしているの?」【対象】
「何が聞かれているの?」【目標】
「どんな知識が使えそう? いま分かっていることは何?」【材料】
この3つの問いかけを経て、材料を組み合わせながら、分かることを順に見つけていきます。
考えるとはどうすることなのかを説明するには、【対象】【目標】【材料】を明らかにする3つの問いかけと、「考えるとは材料を関係づけていくことだ」ということを示してあげればいいというわけです。
考えるのを諦めてしまうのは、
間違えることが怖いから
さて「考える」とはどういうことかが分かったところで、さらに考える力を伸ばすのに役立つコツをご紹介しましょう。
1つ目は、「安心感を渡す」ことです。
言いかえれば、間違えることへの不安感を取り除くということです。
早くから塾通いをしてきた子によく見られる現象なのですが、問題をちょっと見て、「あ、難しそう」と思った瞬間に解くことをあきらめてしまう子がいます。やる気がないと判断されがちな子ですが、実際のところはやる気の問題ではありません。
そういう子は、間違えることが怖いのです。間違えるたびに叱られてきた経験が重なると、間違えなくて済む問題だけを解こうとする癖がついてしまうのです。
その結果、解き方を思い出すだけで答えが出るような問題、考えなくていい問題だけに手をつけようとします。
安全だからです。
指示待ち族の社会人も心理状態は似たものでしょう。失敗が怖い。打開する自信がないから、安全なことだけ取り組もうとしてしまう。
上司から見ると歯がゆい限りですが、真面目さの裏返しでもあります。
そういった子どもや部下に考えることへの安心感を渡すには、「何」に意識をおいた声かけが効果的です。
「『何』がいま問題かな?」「『何』を目指そうか?」「分かっていることには『何』がある?」
明確な問いを行うことで、手順を踏んで進めていけば、必ず道が開けるという安心感を渡すのです。
情報を整理して、手順通りに進めていけば、いま自分ができる精一杯で「考えた」ことになるという安心感です。