2024年12月11日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月28日

 マクロン仏大統領の支持率が急落したことについて、8月26日付の英エコノミスト誌は、年金改革、公務員給与凍結、労働法改正等、痛みを伴う政策が現実のものになってきたためと分析しています。記事の要旨は以下の通りです。

(iStock.com/BryanRupp/GlobalP/tankist276/Digital Vision)

 2カ月前、マクロンは何をしても上手くいった。39歳で大統領の座を射止め、15カ月前には存在さえしなかった政党を議会の多数党にし、不穏当な外国指導者には断固たる態度で臨んで国民を唸らせた。しかし夏には事態が一変し、支持率が急落した。ある世論調査では就任100日の支持率は36%と、オランドの同時期より10%も低かった。失業率やユーロ圏経済が改善したのに、この支持率低下は解せないが、それは以下の3つの不満によって説明できよう。

 マクロンは2回目の選挙で66%を得票して圧勝したが、票の一部はマクロン支持というより、極右のルペン不支持の票だった。マクロンの本来の支持率は1回目の選挙で獲得した24%であり、これはオランドやサルコジよりも低い。

 マクロンへの第1の不満は、マクロンの政治戦術にある。マクロンはフランス革命記念日の式典にトランプ米大統領を招いたが、見返りに何を得たのか判然としない。また、国防費削減を批判した軍トップを公の場で叱責し、これは大統領の権威を示すためだったが、世論は将軍に味方した。さらに、大統領夫人に公的地位を与えようとして、世論の強い反対に遭った。

 威厳ある偉大な大統領を目指すマクロンは、公の場であまり発言せず、記者とお喋りもしない。その結果、イメージが独り歩きし、エリゼ宮での人気モデルとの談笑や戦闘機に乗り込む様子などが格好の揶揄の対象になってしまった。

 第2の批判の対象は、マクロンの政党、「共和国前進」の新人議員たちで、野党は彼らの「無能さ」や「素人っぽさ」を非難する。立法過程に不慣れな彼らがヘマをする様子をからかう動画がネット上を駆け巡った。

 第3に、マクロンの政策は正しいが不人気だ。彼が推す一部の政策は痛みや支出削減を伴い、影響を受ける者は嬉しくない。例えば、年金改革については65歳以上の64%、公務員の給与凍結については公務員の80%が反対している。

 また、元投資銀行家のマクロンは、EUの財政赤字規制を守る手段として、増税ではなく、予算削減を選んだ。彼の論理は、ビジネスへの課税は減らし、成長と雇用創出を促すというものだが、これは富裕層への優遇ととられやすい。

 問題は、人気低下がマクロンの統治能力に影響するかどうかだが、彼のしようとしていることの肝心な点が誤解されているようだ。例えば、今月、政治浄化のための反腐敗法が議会を通ったが、世論はマクロンの功績を認めていない。また、マクロンの労働改革案に対し、厳しい反対がある。フランス人は変化を望んでマクロンに投票した筈だが、そうした変化がどういうものか改めて雄弁に説明してもらう必要があるかもしれない。

出典:Economist ‘Emmanuel Macron finds change is often unpopular’ (August 26, 2017)
https://www.economist.com/news/europe/21727046-frances-young-president-slides-polls-part-because-he-doing-right-things-emmanuel


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