2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月28日

 呉建民・元駐フランス大使はネット上で、「われわれと周辺国との間に摩擦が生じる」ことについて鄧小平の「『韜光養晦』の結果だとなすりつけることは間違いだ」と反論、さらにこう続けた。

 「われわれは『韜光養晦』の方針を貫徹し、国際関係の中で“平和・発展・協力”の旗印を高く掲げた結果はどうだったか。われわれと周辺国家の共通利益は大きく発展した。それには現在、われわれと領土問題で争いのある国家も含まれているではないか」

「賠償要求」に隠された中国のメッセージとは

 中国政府は、中国人船長の釈放を受けた9月25日未明、「日本は中国側に謝罪と賠償をしなければならない」とする外務省声明を発表。これに対し日本の外務報道官が「全く受け入れられない」と拒否すると、同日夜、中国外務省の姜瑜・副報道局長が「中国は当然、日本側に謝罪と賠償を要求する権利を有する」との談話を出した。

 日本国内ではこの談話は中国の強硬姿勢が裏付けるものとして受け止められたが、実はそうではない。「権利を有する」と、実際に行使するのは別の問題であり、1972年の日中国交正常化の際に周恩来首相が「中国人民は日本に(戦争)賠償を要求する権利がある」と主張しながら賠償を放棄したのと同じロジックなのである。

 つまり中国政府は今回も、ロジックの微妙な言い換えによって民主党政権に前向きなメッセージを投げたのだ。危機意識の欠如した民主党政権にどこまで中国の真意を読み取る力があるのか。中国政府は少しでも前向きな対応を取った場合、政治的信頼関係を構築していない民主党指導者から一方的にはしごを外され、国内向けにメンツをつぶされるという事態を懸念しているのだ。それほど中国と民主党の間にはパイプがない危機的状況に陥っているのだ。

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◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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