2024年12月13日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2017年11月5日

(2016.6.18.~9.14 89日間 総費用18万2000円〈航空券含む〉)

早起きは1ルピーの得にもならない

 7月16日。午前4時過ぎに起床。緊張で4時前から目が覚めてしまった。早朝からローカルバスで悪路を走り5000メートルの峠を越えるのだ。英国統治時代から避暑地として有名なマナリーまで12時間の大移動だ。荷物を整理して漆黒の闇の中をヘッドランプの灯りを頼りに歩き出す。

カザのバス乗り場から払暁の空を仰ぐ

 バス乗り場に5時前に到着。そのうちにジープが次々に現れて人間と荷物を積み込んで出発してゆく。料金を聞くと500ルピー(≒900円)と割高である。ゲストハウスのオーナーの話ではローカルバスは300ルピー(≒540円)で割安だがものすごく時間が掛かるので外国人には勧められないという。

なぜか「発車オーライ」しないローカルバス

 5時40分頃にやっと係員が現れて数台並んでいるバスの一台の乗降口を開けた。その途端数十人の地元の人間が乗車口に我先に群がった。ローカルバスでは席取り合戦が熾烈である。慌てて前から4番目くらいの座席を確保。

インド最大の国営石油会社「Indian Oil Company」のガソリンスタンド

 6時頃に車掌が現れて切符を売り始める。6時半にやっとドライバーが登場したがドライバーは直ぐにエンジンを切ってどこかに消えてしまった。

 7時50分にドライバーが乗ってやっと出発。しかし20分も走らぬうちにガソリンスタンドで停車。ガソリンスタンドの係員が出勤して来るまでティータイムとなった。ドライバーも車掌も近くの茶屋に入って呑気にお茶を飲んでおしゃべりに興じている。

 ドライバーはやる気のなさそうな表情の乏しい頑丈な面構えのオジサンだ。車掌は口先ばかりで頼りにならなそうな中年太りのチョビ髭だ。何時に出発するのか聞いたら「心配するな。何の問題もない。お茶でも飲んでリラックスしろ」(Don’t worry. No problem. Have a tea and relax!) と常套句を並べて屈託がない。

 結局軽油を満タンにして出発したのは9時少し前であった。思い返してみるとオールド・カザのバス乗り場で5時から待機して、ニュー・カザのガソリンスタンドを出発したのが9時少し前。この4時間弱でバスが走ったのはわずか5キロである。「ローカルバスは安いけどものすごく時間がかかる」というゲストハウスのオヤジの言葉を思い出した。

タタ社製ローカルバスの雄姿

しばし安寧のひととき

 車窓から雪を頂くヒマラヤ山脈を眺望しながら荒原を走っていると所々にタルパ(チベット仏教の経典が印刷されたカラフルな小旗)がたなびくチベット的世界が広がっている。

 10時に街道沿いに数軒の茶屋・食堂が並んでいるところで停車。30分ほど朝食休憩。手っ取り早く料理が出てくるターリ(豆と芋のカレー&ナンの定食)を注文。

窓を閉めても隙間から砂埃が舞い込む。ハンカチをマスク代わりに

山岳道路で大型車両同士は譲り合い

 11時頃次第に山間が狭くなり岩石ゴロゴロの山岳道路になってきた。すざましい砂埃で窓を閉めても隙間から砂塵が吹き込む。山岳道路は道幅が狭く大型車両の対向車が来るたびに減速・停車・後退を繰り返す。ちなみにローカルバスは99%がタタ社製である。トラックはタタ社の他にAshok RaylandやEicherが多い。

道幅が狭いので大型車両どうしのすれ違いは時間がかかる

無敵のタタ社製旧式バス

 崖っぷちの隘路では双方最大限譲り合っても道幅が足りないこともある。微速前進と後退を繰り返すが軽く接触することは避けられない。流石にプロのドライバー同士であり接触しても問題ない範囲を見極めているようだ。結局1時間くらいの間に右側の窓の上の部分が3回接触した。
13時過ぎにオーバーハングした大きな岩の下に差し掛かった。左側は断崖絶壁。右側の大きな岩の下を半分削って道路が通っている。しかし大きな岩の直前の道路上は山上からの崖崩れで土砂が溜まって盛り上がっている。

 微速で通過を試みたがバスの屋根の荷台の前の部分が引っ掛ってしまう。通過するコースを微妙に変えるがどうしても引っ掛かってしまう。ドライバーはハンマーで叩いて岩の固さを確認してからスピードを緩めずに突進させた。軽い衝撃があったが屋根の荷台部分が出っ張っていた岩の部分を粉砕して無事通過した。

 タタ社製大型バスは全体が分厚い鉄板で覆われており多少の衝撃ではびくともしない。最近の大型バスは燃費向上のため軽量化しており、さらに衝突時の衝撃緩和のため凹み易い構造にしていると聞いたことがある。しかしハードシップの高い山岳道路ではまさに堅牢重厚の旧式バスは安心感がある。

 その旧式バスに全幅の信頼を置いて日常茶飯事のように淡々と難所を越えてゆくドライバーも並みの技量ではない。


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