2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年2月2日

3. 様々なバックグラウンドの起業家たち

 一流企業の社員、高収入の弁護士、検事、大手メディアの記者……中国の起業家の前職は実にさまざま。起業する理由も十人十色だ。中にはノキアの携帯事業のチームが、マイクロソフトに買収され、チーム解体の憂き目に際して独立したというケースも。あらゆる人材がベンチャー界に身を投じている。

東野圭吾の編集者から共同創業者に

 大手出版社で東野圭吾の小説の編集・翻訳を手掛けていた北京大学の中国文学系出身の友人がいる。史詩。日本に留学経験があり、日本語の流暢な彼女は、最初は編集者をしていたが、まもなく自ら翻訳も手掛けるようになった。出版社での仕事に並々ならぬ情熱を傾けているようすを見て、ずっと編集者として出版社で働くのだろうと思っていた。

 ところが、2年ぶりに会って話を聞くと、スタートアップの共同創業者になって、新興メディアの運営にかかわっているという。彼女は文系の中でも最もスタートアップから遠そうなところにいるとばかり思っていたので、度肝を抜かれた。いったい何があったのか。職業だけで判断すると天と地がひっくり返るほどの変化なのだが、彼女からは昔より仕事ができる雰囲気が増した以外、それほどの変化は感じられない。

GoJapanを運営する亜智游(北京)信息科技有限公司の共同創業者でCOOの史詩。同社で働いているのはほとんどが90後だ

 「起業しようという思いがあったのではなくて、ちょうど仕事の仕方を考えるタイミングでそういう誘いがあったから、共同創業者になった」と、起業に加わったのはたまたまだったと話す。彼女にとってのきっかけは妊娠・出産だった。編集職だけでなく翻訳まで手掛けて超多忙な会社生活を送っていたが、子供が生まれるとそういう生活は継続できないと思ったのだ。

 「翻訳の仕事をかなり手掛けるようになっていたので、家庭と仕事を無理なく両立できるように、独立しようと。ちょうどそのタイミングで日本の情報を流すメディアを立ち上げる話が舞い込み、共同創業者になった」

 今でも翻訳の仕事は継続しつつ、日本の旅行情報などを流すメディア(連載の『中国ベンチャーに“天文学的”な金額のカネが集まるワケ』で紹介したGoJapan)のコンテンツ作成の部分を担っている。もともと日本旅行が大好きで、特に鉄道への思い入れはすさまじい。北京大学在学中に筆者はJRと私鉄の全線塗りつぶし地図帳なるものを買ってほしいと依頼されたこともある。そんな彼女にとって仕事で日本を旅行できる今の仕事はまさに天職。年に数回日本を訪れ、旅行指南の文章を発表し、はやりの生放送もこなし――と精力的に活動している。

意義ある仕事求めて起業した女性弁護士

 社会的に意義のある仕事をしたいと、高給取りの仕事を辞めて創業した女性もいる。スタートアップをターゲットにした廉価な法務サービスを提供する人人法の創業者、黄穎。もともと上海の外資系の銀行で弁護士をしていた。かなりの好待遇だったが、本国から派遣される社員に比べガラスの天井があることに気づき、もっと意義のある仕事をしたいと考えていた時にスタートアップ向けの法務サービスができるのではと考えた。

弁護士で人人法創業者の黄穎。朝陽区のオフィスで

 「前職のころから、スタートアップの友人たちから法務について問い合わせを受けることがよくあった。なぜ弁護士事務所と契約しないのかと当時は思っていたけれど、自分も起業して、スタートアップにそんなお金がないことはよく分かった」

 オンラインで各種契約書を簡単に制作できるサービス、オンライン上で質問すれば弁護士から折り返し電話がかかってきて相談に乗ってくれるオフラインサービスなどを、安く提供している。まずは安価なオンラインサービスをきっかけにスタートアップの顧客を獲得し、その企業が成長し、より高度なサービスが必要になれば顧問契約に切り替えて息長く付き合っていくことを目指している。

 これまで紹介した2人の起業はたまたまだったり、仕事の意義を追求してのものだが、好きでたまらない何かを極めたくて起業した人もいれば、逆に状況に迫られてという場合もある。


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