チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年3月22日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

習近平一強体制を支える「車の両輪」とは

 おそらく習近平主席の一強体制を可能にしたもう一方の柱は、圧倒的な経済力を“原資”として近代化を進める解放軍の海外展開であり、一帯一路という超野心的な経済協力策ではなかろうか。両者を車の両輪として、習近平政権は国内外に対する影響力を飛躍的に拡大してきたわけだ。

 前者が比較的に順調に進んだ最大の要因は、やはり8年間に及ぶオバマ前政権の不作為に近い対中政策であり、同政権の姿勢がASEAN諸国をはじめ周辺諸国を親習近平政権色に染めたことは疑いようがない。加えるに現在のトランプ政権の“予測不可能”な振る舞いが周辺諸国の一帯一路への傾斜を招いている背景にあるだろうことも、やはり指摘しておきたい。

 ここで一帯一路の現状を地図上に記して見ると、海洋では南太平洋からギリシャまで、中国はいくつかの主要港を押さえてしまった。パラオまで手中に収めたことで、第一列島線の外側に拠点を持った。グアムは指呼の間に在る。ブルネイは南シナ海での動きを容易くする働きを持つだろう。インドの主要軍港は中国の唱える「真珠の首飾り」で遠巻きに押さえられていることから、インド洋有事の際、アメリカ軍の動きは制限されるに違いない。陸上では、昆明を起点にミャンマーのチャオピューがパイプラインで結ばれ、ラオス経由でバンコクを結ぶ鉄道は紆余曲折を経たが建設に向け動き出した。カシュガルとパキスタンのグワダールもまた建設に向け動き出す可能性を考慮しておくべきだろう。

「一帯一路」の現状(編集部作成) 写真を拡大

 日清戦争勝利直後の1995(明治28年)末、シャム(タイ)への移民を希望する熊本農民を束ねて神戸から旅立った宮崎滔天は、バンコクなどで目にした日本人と華僑の働きぶりを比較して、「一氣呵成の業は我人民の得意ならんなれども、此熱帶國にて、急がず、躁がず、子ツツリ子ツツリ遣て除ける支那人の氣根には中々及ぶ可からず」と『國民新聞』で伝えている(「暹羅に於ける支那人」(『宮崎滔天全集』第五巻 平凡社 昭和51年)。

 どうやら一帯一路もまた「子ツツリ子ツツリ」である。ならばこそ、「一氣呵成」に結論を求める早トチリだけは、なんとしても避けたいものだ。「一氣呵成」という振る舞いが、我が民族にどれほどの負担を強いたか。やはり歴史を振り返って見るべきだろう。

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