チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年3月22日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

一帯一路は「3割達成」でも大成功と言える

 だが、ここで考えたいのが、これほどまでに野心的な試みを支える経済的基盤である。いったい習近平政権は確固とした財政的裏付けを持っているのか。おそらく中国側が常に持ち出す「双贏(ウィン・ウィン)関係」の均衡が破れ、関係諸国に一帯一路に対する疑念が湧いた場合、習近平政権にとっての「中国の夢」は白日夢に転ずる可能性は大だろう。

 中国側の統計では、現在の海外在住華人は5000万人ほどで総資産は日本円換算で約2000兆円とのこと。目下、主に東南アジア華人企業家を中心に一帯一路に対し高い関心が示されているようだが、一強体制が揺らいだ場合、彼らの企業家マインドが冷え込む可能性も考えておくべきだ。加えるに華人企業集団の多くで中国を自らのルーツと強く意識する創業世代の時代から、中国に対する文化的帰属意識の希薄な次の世代へと経営権が移っている現状を考えると、商機の失せた一帯一路への関心が大後退することも想定できそうだ。

 とはいえ、中国人の行動パターン――彼らはクチでは勇猛果敢でハデに100をブチ上げるが、ハラの中では50から30程度で手を打つ傾向――に照らして“妄想”するなら、おそらく習近平主席自身、現在打ち出している一帯一路の完全達成など頭の中にはないだろう。現に掲げる構想の3割達成であっても大成功ではなかろうか。なぜなら、所詮はゼロから出発したものだから。

想起される独裁者の悲しい末路

 第19回大会最終日に「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」を読み上げる習近平主席の姿に接した時、そして今回の全国人民代表大会で宿敵の李克強首相の制圧を内外に強く印象づけようとの振る舞いが報じられた時、1969年の第9回党大会を思い出した。あの時、毛沢東は「団結の大会、勝利の大会」を高らかに宣言し、党規約で林彪を後継者に指名した。そこに、文化大革命という過酷な権力闘争を勝利した毛沢東の誇らしげな姿を見た。だが、ほどなく毛沢東の一強体制は動揺を来す。林彪との間で権力闘争がはじまったからである。

 また習近平一強政権に色濃く見られる“お友達政権”という性格も大いに気になるところだ。政権中枢をイエスマンで固めることは、古今東西を問わず独裁政権の必然と言えよう。それは毛沢東も同じであり、「四人組」という“究極の茶坊主たち”が毛沢東原理主義を掲げ文化大革命の継続を過激に進めていたことが思い出される。仮に文革が継続していたなら、中国社会に壊滅的な打撃を与えたであろうことは誰にも予想されたところであった。

 はたして習近平主席の脳裏に毛沢東対林彪の権力闘争の悲惨な結末が、はたまた「四人組」の暴走を押し止められなくなっていた独裁権力者・毛沢東の老いさらばえた姿が思い浮ぶことはないのだろうか。

  
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