2024年12月3日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月23日

 ウクライナ議会は6月7日、反腐敗特別裁判所を設置する法案を採択した。これについて、同国のポロシェンコ大統領は、6月18日付けワシントン・ポスト紙に‘My goal is to defeat corruption in Ukraine’(私の目標はウクライナでの腐敗を敗北させることである)と題する論説を寄稿し、ウクライナで腐敗との戦いが進んでいると強調している。

(mactrunk/andriano_cz/kuppa_rock/ iStock)

 論説でポロシェンコは、ウクライナの市民社会、ボランティア・ネットワーク、EU、IMF、北米のパートナーが改革の同盟者であり、これに対し、ロシア、国内のポピュリストや既得権益者が改革を妨害しようとしている、と指摘している。ポロシェンコは、反腐敗裁判所はウクライナに法治国家を作るために最も重要である、として、「次の課題は反腐敗裁判所が速やかに活動を始めることを確保することにある。外国の専門家が判事の選択を監視し、判事は厳選される。この裁判所は残存する腐敗スキームを閉鎖し、責任者を裁判にかける」と述べている。一方、欧州のパートナーに対し、ウクライナからの資本の移動についての適切な注意義務を果たし、ウクライナ裁判所を迂回しようとする官僚やオリガルヒに安全な隠れ場所を与えないよう求めている。そして、「この(反腐敗栽培所設置の)法の成立は、我々が平和で安全な、腐敗のない国、EU、NATOのパートナーになる努力に逆戻りはないことを示した」と強調して論説を結んでいる。

 今回のウクライナでの反腐敗裁判所設立法案の成立は重要で、ウクライナ情勢に関し分水嶺となりうる出来事である。ウクライナ議会は定数450名であるが、そのうち317名の賛成で成立した。

 ポロシェンコ大統領は、上記論説で、ウクライナのEU、NATOのパートナーになるとの路線に逆もどりはないことが示されたとしているが、そうであれば、結構なことである。

 しかし、ウクライナには親欧米派と親ロシア派、ウクライナ語を母語とする人々とロシア語を母語とする人々、東ウクライナと西ウクライナとの間の対立関係は構造的で、深く、これが解消されて、統合された一つの国民ができていくプロセスはそう簡単ではない。

 だからこそ米欧は今のポロシェンコ政権に協力し、ウクライナの西側指向に褒賞を与えていくことが肝要である。そういった米欧の姿勢がロシアでも西側とうまくやる政権の成立に、すぐにではないが、徐々に貢献することになろう。ロシアについても、巨視的に見れば、歴史的に西側との関係重視派とスラブ主義派が交代して政権を握ってきたと言える。

 ただ、今のEUがそのような役割を強力に果たしうるか、疑問である。法の支配がEUに加盟したウクライナの隣国ポーランドとハンガリーで揺らいでいる。また、トランプのアメリカはリベラルな国際秩序維持に関心を持っているとは言えない。オバマ政権はウクライナへの武器供与について抑制的であった。トランプ政権はと言うと、対戦車ミサイル供与に踏み切るなど積極的であるが、トランプは他方でウクライナ侵攻を処罰するために行われたG8からのロシア排除を巻き戻す提案をするなど、首尾一貫性を欠いている。

 ウクライナのNATO加盟については、7月11-12日のNATO首脳会議において、改革の推進、人権尊重、法の支配の遵守などが求められ、その中で、反腐敗裁判所設置は具体的施策の一つとして評価された。

 ウクライナの独立はソ連崩壊の引き金であった。ウクライナを西側に取り込むことは世界情勢の今後について重要であることを米欧はもっと意識するべきと思われる。
 

  
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