やはりロシア的超長期戦略がモンゴルには相応しい
クレルは1カ月後に世界最大手の鉱山資源会社である英豪資本のR社がコントラクターとして請け負った、ゴビ砂漠地方の南モンゴル鉱山開発プロジェクトの立上要員(starting member)として六カ月間現地に派遣される。
R社の下請けとして中国、韓国、インド、フィリピン等の企業が参加する多国籍チームとなる。さらに多数のモンゴル人ワーカーが現場に入る。このプロジェクトについてクレルが問題にしているのが、現地での居住環境の整備である。R社の提案では、プロジェクトに係る技術者・労働者は3週間現場のキャンプで寝泊まりして働いて、1週間自宅で休暇を取るというローテーションを前提にしている。
現場は人口希薄なゴビ砂漠であり中国国境に近い。モンゴル政府はじめモンゴル側関係者はむしろ中国国境近くに将来鉱山関係者が居住する企業城下町を建設するという構想を持っている。そうすれば南モンゴルの経済発展の基地になり得るし、将来鉱山で働くモンゴル人職員・労働者も積極的に移住する。
クレルだけでなくモンゴル側関係者はエルデネト市という鉱山都市をモデルに企業城下町構想を持っている。当然背景には、人口浸食してくる中国に対する国境防衛という戦略がある。
資源開発と並行して拠点都市を建設するというのはロシアがシベリア開発した伝統的アプローチである。欧米企業とは異なるロシア・モンゴルの超長期的発想である。果たして結果がどうなったのか興味がある。
内モンゴル自治区(内蒙古)に入ると一級国道“高速道路”に
10月8日。早朝8時発の長距離バスに乗りウランバートルから国境の町ザミンウードを経て中国側の二連浩特(エレンホト)に午後三時頃到着。さらに翌日バスで内蒙古自治区の省都である呼和浩特(フフホト)に移動。
モンゴルから国境を越えて中国側に入ると道路の舗装が格段に良くなった。エレンホトからフフホトまでは一級国道(高速道路)である。道路だけでなくインフラ全体が整備されていることに気づく。フフホトは数十年で近代的高層ビルが林立する大都会に変貌していた。
現在のフフホトの人口は230万人であるが、大半は漢民族でモンゴル族は10%未満である。内モンゴル自治区において都市部は漢民族で占められ、モンゴル族の大多数は地方の草原に散在して居住しているという構図のようである。
建物や道路標識など全ての表示は漢字・モンゴル文字併記である。中国の国会である全国人民代表大会(全人代)へ、モンゴル族の代表が民族衣装を着込んで晴れがましく出席している。形式上は“自治区”としてモンゴル族が主権を握っているという演出である。
モンゴルは清朝の支配を脱して辛亥革命後に成立した中華民国から紆余曲折を経て独立を達成した。その過程で内モンゴルは分離され中華民国の領土となった。すなわち本来のモンゴル人の生存圏は二分されたのである。
21世紀の現在の視点で比較したら、内モンゴル(中国領)と外モンゴル(モンゴル国)のどちらに住んでいるモンゴル人が幸せなのだろうか。そんなことをフフホトの壮麗な鉄道駅を眺めながら考えた。
⇒第7回に続く
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