2024年4月18日(木)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2018年8月11日

人間の脳は二進法で考えない

 最後に人工知能の話をしたいと思います。AI(Artificial Intelligence)とは人間の知能をコンピュータによって再現することから始まったようです。人間の脳は電気信号が行き来する回路、脳細胞の間を電気信号が流れているので、電気回路と言えるわけです。これをCPUに置きかえれば同じモノができると考えた訳です。この段階で踏み外しが起こったのではないでしょうか。人間の脳を電気回路だと思った、人間の思考を計算によるものだと思った。そこが大きな踏み外しだったんです。

 人間の脳は巨大なチューリングマシーンだと考えたわけです。チューリングマシーンは皆さんご存じように数学者アラン・チューリングが考えた仮想の計算機ですね。どんな複雑な計算も2進法の演算に置きかえられると考えたことですね。ここにも短絡があります。人間の脳も2進法で計算している。人間の脳の認知機能だけに限定してしまったわけです。人間の脳の全活動からみると、ごく限られた機能ですね。動物でもやっている低次元な活動にすぎません。これが全てだと誤解したことが、AIの大きな間違いだったと思います。

AIができるのは同一性の認知だけ

 認知機能とはA=Aという同一性を認知することですね。AIはこれをほぼ瞬時におこなえます。これで何ができるかと言えば、ビッグデータを分析して、そこからパターンを認識する。そのパターンと現実のデータのズレを見つけ出して演算していくと限りなく同一性に近付いていく。超高速で動作すれば、AIは人間を超えられます。アルファ碁が人間の棋士を超えるとか、医療のビッグデータからAIが症例の診断をくだすとか、個人のデータを元に信用スコアとしてはじき出してローンの査定額に利用する。あるいは高速トレードというのでしょうか、μ秒単位ナノ秒単位で金融取引をおこなうだとか、認知能力に限定すれば人間はAIにかなわないという現実があります。

人間は同一性を超えられる

 僕の母方の祖母が認知症になりまして、見舞いに行っても誰が来たのか分からない。僕は孫なのに息子の名前を呼んだりしていました。つまりA=Aが認識できない。時間や場所に関しても、ここという認識ができない。物忘れが始まり、徘徊が始まります。日常生活のレベルでみると非常にやっかいな問題なのですが、その一方で、人を好きになるのは認知症になるようなもので、A=Aをはるかにはみ出してA=∞になっていくわけですね。誰かを好きなるというのはほとんど認知機能が崩壊していると言えます。客観的なデータで言えば「世界で一番キレイだよ」とか言っているわけですから明らかにおかしい。これは認知機能を超えたもっとクリエイティブな作業だと思います。

 誰かを好きなるという誰もが持っている普遍的なこと1つとっても、その中に非常に人間的な、創造的な作業が含まれているわけです。認知機能をはみ出すということは、自己をはみ出すことだと思います。自己を認識することも将来はAIがやってくれるに違いありません。現在でも朝起きてPCを立ち上げるAmazonにはレコメンしてくれる商品が並んでいます。そのうちに、人間の健康状態や心理状態はPCを立ち上げたときに認識してくれるという世の中になるでしょう。自己もデジタルデータになってPCに管理されるかもしれません。


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