エベレストだけでなくグランドスラムも達成した今、心の山はどうなったのだろうか。
「エベレストの山頂に立った時には涙が止まりませんでした。心が洗われ、殻が破れて新しい自分になれたような気がしたんですが、下山後しばらくして気づいたのは、心の中の山の輪郭がはっきり見えるようになったということでした」
全貌が把握できれば、そこをどう登ればいいのか、どこにどんな問題があるのかもわかる。南谷は、登山は自分にとって瞑想のようなものだと言う。雑念やしがらみなど入り込む隙間のない生と死のぎりぎりの過酷な状況で、一歩一歩前に繰り出す足は完全無欠に自分自身の足跡である。
来月は高校の後輩たちと南アルプスを縦走する予定だと話す表情は穏やかで、今の南谷にとって山は楽しむものになったのだろうと推測される。現在は大学での勉強を第一に、いつか家族ができたら一緒にヨットで世界一周したいという夢のためのセーリングのトレーニングにも励んでいる。
あり余るエネルギーはまっしぐらに未来に向かっているようだ。さて、今の南谷は、学生? それとも雑誌などで紹介されている冒険家?
「うーん。冒険家というとアマゾン奥地を極めるみたいに捉えられるけど、ちょっとニュアンスが違う。強いて言えばエクスプローラーかな」
エクスプローラー。探検家。自分の魂の奥底まで全力でひるまず突き進んでいく探検者という意味なら、きっと今後も「エクスプローラー・南谷真鈴」であり続けるのだろう。
みなみや まりん◉1996年、神奈川県生まれ。父の転勤のためアジア各地で子供時代を過ごす。2015年、高校3年のときに帰国、大学入学後の16年5月に日本人最年少の19歳でエベレスト登頂、その後世界7大陸最高峰制覇、20歳で北極点と南極点到達を加えた探険家グランドスラムを達成した。
石塚定人=写真
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