どうしてほしいか、周囲に伝えることも必要
――実際に患者さんには、どんな風にアドバイスしていますか?
藤澤:自分の病気のことを周囲に話す時は、ただ病名を伝えるだけではなく、「相手にはどうしてほしいのか」を伝え添えることをお勧めしています。たとえば、「病気はしたけれども、これまで通りに普通に接してほしい」とか、「生活上の制限はないのでこれまでと同じように仕事も遊びも声をかけてほしい」とか。あるいは、配慮してもらいたいことは具体的に伝えるようにします。「通院のために遅く出勤する日を認めてもらいたい」などです。
――日本人はどうしてほしいか伝えるのが苦手というイメージがありますが、実際は伝えたほうが相手も配慮しやすいですね。
藤澤:そうですね。「言わずもがな」にならないことが大切と考えます。自分がこれだけつらそうにしているのだから言わなくても相手はわかってくれるだろう、などと考えてしまいがちですが、周りの人にとっては、心配だけど声のかけ方がわからないことや、病気の経験がなくて想像がつかないことなどがあります。
――サポートを得られることで、気持ちの安定にもつながりそうです。
藤澤:そうですね。特にお子さんに関する心配について考える時には、はじめに自分自身の心配を整理できている必要があります。「病気のことを子どもにどう話したらよいかわからない」と相談に来られる患者さんは、お子さんへの心配以前に、自分自身が病気の受け入れができていなかったり、生活の見通しが持てていなかったりすることが多いと思います。生活や仕事をどうしていくかが決まっていないうちに子どもに話そうとしても、お互いに不安ばかりが増えてしまいます。まず信頼できるサポーターに自分のことを相談して自分の心配の整理をする。そうすると子どもとの関係も結果的に安定します。
――なるほど。
藤澤:お子さんについて心配を感じた時、それは、本当にお子さんについての心配なのか、自分自身の心配を子どもに投影しているだけなのか。そういった視点で考えてみていただきたいと思います。
体の病気を持った人の心のケア、これからの取り組みを
――日本でもPACTプログラムのようなものはあるのでしょうか。
藤澤:全く同じものはないと認識していますが、病院内では、緩和ケアチーム、精神科リエゾンチーム、一部の病院では、チャイルド・ケア・スペシャリストなどの専門職が担当できると思います。また、「Hope Tree」という団体が、がん患者さんとそのご家族を対象とした取り組みを行っています。がんになった親を持つお子さんに、親御さんの病気のことを教えたり、病院探検をさせたり、家の中でコミュニケーションを取りやすくするためのプログラム(Children’s Lives Include Moments of Bravery:CLIMBプログラム)です。私の勤める慶應義塾大学病院でもSKiP(Supporting Kids of Parents with Cancer)という名称で同様のプログラムを提供しています。
――藤澤さんが、体の不調を持った人の心のケアについて特化して研究しようと思われた理由を教えてください。
藤澤:現代医療は高度・複雑化していて、ケアにはたくさんの人間が関わります。一人の“良い医者”が心も体も生活も全部面倒見る医療モデルは成り立たなくなっています。そんな中で、「体の病気を持つ人の心を診る専門家」がいて良いと考えました。
――病は気からとも言います。
藤澤:気持ちの問題だけで病気が解決するわけではありませんが、病気の治療に当たっては、体だけでなく心のケアも、また、ご本人だけでなくご家族のケアも、大切にしていきたいですね。
――これからさらに取り組みや認知が広がっていくといい分野だと思います。
藤澤:そうですね。こういった支援はどこででも必要ですが、すべての医療現場でそういった支援を提供することはマンパワーの制約上むつかしいと思いますので、本書が解決の一助になればと願っています。
・闘病中の親にサポートはとても大切
・本人は頼る意識を、周囲はサポートを
・親自身の気持ちが安定することが子どもの気持ちの安定につながる
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