オトナの教養 週末の一冊

2018年9月21日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――ユーラシア連合構想は、かなり先行き不透明ですね。

廣瀬:ロシアにとって、他にも厄介な点があります。ひとつは、中央アジアの国々は、これまでロシアに強く依存し、石油や天然ガスもロシアにしか輸出できない状況でしたが、経済力をつけ、多くのエネルギーを必要とする中国がこの地域に進出してきて、中央アジア諸国の対中資源輸出が増えてきているということです。これにより、中央アジアの対露姿勢も以前より強気になっているように見えます。

 また、これらの国々の動向で目立つのが、欧米への接近です。なかでも目立つのがウズベキスタン。権威主義だった同国の大統領、イスラム・カリモフが16年9月に亡くなり、新大統領に就任したシャヴカト・ミルズィヤエフは、権威主義から外交の多角化へ舵を切り、アメリカとの関係を深めています。ウズベキスタンは、05年に起きた国民を虐殺したアンディジャン事件以降、アメリカとの関係が悪化していました。それが改善に傾き始めた。それに慌てたのが、カザフスタン。今年3月に、アメリカのアフガニスタン作戦のために、米軍がカスピ海にある2つの港を使用することを認めたのです。これに対し、ロシアは相当激怒しています。

 このことは、20年以上続いた、カスピ海の領海問題、つまりカスピ海を海と考えるか、湖と考えるかという論争に一応の終止符を打つ大きなきっかけになったと思っています。海だと定義された場合は国際法(「海洋法に関する国際連合条約」)が適用され、つまり「領海」の原則が適用され、天然資源については、自国の「領海」でしか開発できなくなるのですが、自国「領海」に資源を有するアゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、ロシア(自国「領海」に資源が見つかってから)が海であると主張してきました。他方、湖だと定義された場合は、国際的な慣習により、カスピ海は沿岸国の共同管理になり、資源なども共有財産として均等に分配されることになります。このような論争が20年以上続いていたわけですが、今年の8月12日のカスピ海サミットでようやく「玉虫色」ながら一応の合意が生まれたのです。

 長くなるので詳細は避けますが、カスピ海を海でもなく、湖でもないという「特別な法的地位」を有する大陸内水域とし、沿岸から15海里は領海/同25海里は漁業専管水域とし、海底パイプラインは関係国の合意によって敷設可能としたことが主要なポイントとなります。ロシアは自国を迂回する海底パイプラインが敷設されることには反対でしたが、今回の同意で、その可能性を認めてしまったことになりました。

 とはいえ、海底パイプラインの敷設には事前の環境アセスメントとその結果に対する沿岸5カ国の合意が必要となるのですが、その際に、ロシアが海底パイプラインの敷設を妨害する可能性があることは危惧されています。他方、外国軍のカスピ海渡航禁止ということが合意され、5カ国の結束を対外的にアピールしたことはロシアの決定的な外交的勝利だといえます。それほど、ロシアは米国に勢力圏を脅かされることを警戒しているともいえるでしょう。また、このことは、ユーラシアに影響力を拡大している中国に対しての牽制の意味も持っているはずです。

――旧ソ連の中央アジア諸国は、これまでロシアばかりを見ていたけど、他にも貿易相手はたくさんいることに気がついたと。

廣瀬:開眼させたのが中国です。他にもトルクメニスタンは、ロシアと価格交渉で決裂し、ロシアに天然ガスの輸出ができなくなりましたが、対中輸出は伸びていまして、中国の存在感がますます大きくなっています。

 エネルギーの買い取り価格に関しても、ロシアは中央アジア諸国から安く買い叩き、そこに相当なマージンを乗せ、ヨーロッパへ輸出していました。しかし、ロシアへの制裁の影響で、以前ほどヨーロッパでは売れなくなったようです。

――そうなると、中露が再び対立しそうですが。

廣瀬:対立に火種は色々とあると思います。ただし、経済力が落ちているロシアは中国に対して強気に出られないというのが実情です。

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