2024年11月23日(土)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年11月9日

泡沫候補が一転、「時の人」になったワケ

 高雄市は台南市と並び、長らく民進党の牙城であり票田とされてきた。総統選挙でも立法院選挙でも、民進党にとってはとりあえず高雄と台南は安泰という「票が読める」エリアであったのは間違いない。謝長廷(現駐日代表)の時代から、陳菊(現総統府秘書長)まで、10年にわたって民進党が市長のポストを占めてきた。その高雄がいま揺れている。

 当初、民進党候補者の陳其邁の勝利は固いと思われたのだが、みるみるうちに失速した。原因は、国民党の候補である韓國瑜の躍進だ。韓國瑜は台北県(現在の新北市)生まれの外省人で、立法委員の経験者でもあるが、近年は政治の第一線から退いていたこともあって、候補者になった時点では泡沫候補に近かった。

 しかし、泡沫候補ゆえの破れかぶれが功を奏したのか、ハゲ頭をシャンプーしながらインタビューに答えたり、「高雄にディズニーランドを誘致する」とぶち上げてみたりと、野党第一党の候補者らしからぬパフォーマンスと、破天荒な言動で注目を集めた。

 これまでの政党政治に飽き飽きしていた若者たちにとって、韓國瑜はこれまでの候補者とは「何かが違う」と思わせるものがあるのだろう。事実、2014年に台北市長に当選した柯文哲も、政治は未経験の医師。いつもくしゃくしゃの髪に、大口を開けて豪快に笑い、インタビューにもどこか斜に構えたように答える姿が、有権者の若者たちには新鮮に映ったがゆえの大勝だったといえる。「高雄にディズニーランドを」という発言も、実現性はさておき、空洞化によって経済的に落ち込む高雄の人々を鼓舞したのだろう。

「外省人=悪」というステロタイプ

 ここであえて注目したいのは、韓國瑜の経歴だ。国民党所属の外省人の彼がなぜ台湾人意識の強い本省人が多い台湾南部で躍進しているのだろうか。それはもはや台湾の主流を占める有権者のなかから本省人や外省人といった「省籍矛盾」とも呼ばれる対立が影を潜めたからだ。

 日本人のなかには、「外省人」と聞くと嫌悪感を示す人がいる。「あの市長は外省人ですよ」と聞いただけで「そりゃダメだ」と断言する人がいる。しかし、あえて断言するならば、本省人や外省人といったくくりだけでは、もはや判断できない時代になっているのだ。

 確かに台湾は戦後、1990年代まで国民党の独裁政権が続き、台湾人は自由を奪われた。それどころか、吹き荒れた白色テロによって命を奪われたり、人生の大部分を政治犯として過ごさざるを得なかった人々もいる。

 この間、国民党に牛耳られた台湾を救おうと、台湾独立運動が主に海外で展開されたが、その最前線基地が日本だったことや、小林よしのりの漫画『台湾論』が外省人を徹底的に悪として描いたため、日本人の台湾に対する思考が「外省人=悪、本省人=善」「外省人=加害者、本省人=被害者」や「国民党=加害者であり悪」といったステロタイプが埋め込まれてしまったのではないかと見ている。


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