2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年3月13日

 英国は従来、ファーウェイの次世代通信技術「5G」への参入を巡り、機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」(英、米、カナダ、豪州、NZ)の中心国の一つとして、ファーウェイに厳しい姿勢をとっていると見られてきた。ところが、2月17日、フィナンシャル・タイムズ紙など複数の英主要メディアが、英政府通信本部(GCHQ)傘下の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)が、ファーウェイ製品を5G網に導入してもリスクは管理可能との結論を出した、とする未公表の情報を報じ、波紋を広げた。2月20日にNCSCは、報道通りの内容の発表をした。

(min6939/iZhenya/Mellok/iStock)

  英国の元外交官で中国問題の専門家のチャールズ・パートン氏は、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)から2月20日付けで発表した報告書‘China–UK Relations-Where to Draw the Border Between Influence and Interference?’で、ファーウェイの5G網への参加を認めることは「少なくとも甘く、最悪の場合は無責任ということになり得る」と指摘し、その理由として、次の点を挙げている。

・中国のサイバー攻撃の歴史は、産業、商業、技術、防衛、個人情報、政治を含む幅広い分野へのアクセスが、中国共産党の海外への干渉に不可欠であることを示している。5Gは将来、重要な国家インフラのみならず、IoTに依存する多くのプロセスにとり、死活的に重要なものとなる。

・システムにバックドア(不正侵入の入り口)を仕掛けることは、それを発見するより、はるかに容易なことである。中国のサイバー攻撃者と英国の「ファーウェイ・サイバー・セキュリティ評価センター」との戦いでは、前者が後者を圧倒している。

・ファーウェイの中国人スタッフは、中国政府の要求に応じる以外の選択肢がない。ファーウェイは私企業かもしれないが、中国共産党は私企業への関与を強化し、最近の中国の国家保安法は、私企業に国家安全保障問題における保安当局への協力を求めている。

・米、豪、NZは、ファーウェイ、その他の中国企業を5G計画から排除する動きに出ている。英国のネットワークがファーウェイのリスクにさらされることになれば、ファイブ・アイズのパートナー、さらには仏独日なども、英国との協力に後ろ向きになっていくだろう。通信技術において、サイバーセキュリティの「ファイブ・アイズ基準」を維持することが、戦略・安全保障上の死活的な利益であり、それを失うことは、英国が将来の諜報収集技術の開発協力から排除されることにさえ繋がりかねない。

 英国がファーウェイを5G網に参加させることの安全保障面からの懸念は、上記の指摘に尽きる。ただし、パートンは、英国がファーウェイの5G参加を認めれば独仏との協力が危うくなると言うが、今のところ独仏、特にドイツはファーウェイに厳しい姿勢をとっていない。

  これに対し、経済的観点から、ファーウェイを英国の5G計画に参加させるべしとの主張も強い。2月25日付けのフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Huawei needs vigilance in 5G rather than a ban’は、ファーウェイのリスクを認めつつも、

・ファーウェイがバックドアを仕掛けていたことは確認されていない。各国政府はファーウェイの禁止よりも監視により利益を得られる。

・意図的な仕掛けより、ソフトの脆弱性のほうが大きい問題である。

・ファーウェイ製品は、低価格かつ高機能である。ノキアとエリクソンに独占させれば、多様性が失われ、通信網の安定を危うくする。

  などと、ファーウェイの5G参入を認めるよう主張する。経済的理由の中には、ファーウェイの機器が割安であるということ以上に、当然、Brexitの帰趨が大詰めを迎えそうな時にあって、今後の経済関係を考え、中国を刺激したくないという意図もあるであろう。メイ政権内でも、中国に対して穏健な姿勢を求めるハモンド財務相のような考えと、強硬姿勢を求めるウィリアムソン国防相のような考えが分かれている。

 英国が5G網計画にファーウェイを参加させるのか、あるいは、建前上は「リスクの管理は可能」としつつも監視を厳格にしていくことで事実上排除していくという運用をしていくのか、注目を要する。

  
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