2022年8月8日(月)

Wedge REPORT

2019年3月15日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年生まれ。85年に早稲田大学卒業後、フリーランスとして活動。「堤清二 『最後の肉声』」(文藝春秋)で、第47回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。近著に『起業家の勇気 USEN宇野康秀とベンチャーの興亡』(文藝春秋)。

互いの命を預け合う運命共同体

 飛散物防止のアイマスク、2、3センチの厚みがある防弾チョッキ、火器も携行し、艦船からゴムボートを降ろしては不審船に近づく。あらかじめ用意しておいたアラビア語、ソマリ語の音声を流しては、まず呼びかけをする。周到な準備をし、考え抜き、用意していても不測の事態は起きるもののようだ。だからこそ、細心の注意を払わねばならないのだ。

写真左:小型船舶の情報収集のために、銃撃リスクを背負いながらゴムボートで接近することもある
写真右:飛散物防止のアイマスク、2~3センチの厚みがある防弾チョッキ、火器も携行して不審船に近づく

 艦船は閉じられた空間の中での生活を強いられる。分かっていても、ことに経験の浅い者たちには、逃げ場のなさが、心理状況に微妙に影を落とす。だからこそ、先輩士官たちは、〝親〟のごとく振る舞い、下の者を鼓舞し、励まし、育てていこうとする。

 「互いに〝命の預け合い〟をしているのが戦船(いくさぶね)。運命共同体だからこそ、それぞれが与えられた役割以上の精神をもたなければいけない」

 ベテラン士官の言葉は重い。

 哨戒機にしろ、護衛艦にしろ彼らの活動を支えるのは日本が初めて海外に持ったジブチでの拠点だ。夏場は50度を超え、顔を上げたくとも上げられぬ程の熱が拠点を襲う。だからといって、ゲートの歩哨を止めるわけにはいかない。拠点を守っているのは、陸上自衛隊中央即応連隊(宇都宮市)などから派遣された部隊だ。

 ジブチは砂漠にある国。基本的に娯楽らしきものは皆無。派遣自衛官に与えられている月に一度の特別休暇(戦力回復日と呼ばれている)は、ジブチで最も高級とされるドイツ系のホテル「ケンピンスキー」での1日宿泊だ。自衛隊という職務の性格上、どこでもいつでも日本国内とLINEやSNSで連絡を取り合うこともままならぬ環境はやはり、自然環境含めて過酷である。

写真左:隊員がくつろぐ休憩スペース。Wi-Fiが繋がるため家族と連絡をとるために隊員が集まってくる。 写真右:日本の銭湯を感じさせる浴場

 人口100万人ほどの小国、ジブチ。中でも人口の約6割が密集するジブチ市には、日本をはじめ、米国、旧宗主国フランス、スペイン、イタリア、ドイツの各国の軍隊が駐留している。近年はそこに中国軍も進出してきた。狭い国土に密集する各駐留軍。この中でも自衛隊は、バーレーン(米第5艦隊の司令部の所在地でもある)に本部がある「CTF151」(多国籍部隊)に司令官を送り出しもしている。同組織と米第5艦隊とは密接な関係を築きあげている。ジブチ自衛隊拠点の司令を務めるのが関谷拓郎1等陸佐。過去7年間にわたり中央即応集団並びに第一空挺部隊で過ごした関谷は、まさに筋金入りの自衛官だ。

陸自と海自の隊員が混ざるのはジブチ特有だ。後列左側の隊員は子育てを終えてから志願して参加している

 航空であれ、海上であれ、海賊対処行動を支援するのが拠点の役割であり、関谷を喜ばせているのは、国内の災害派遣と同じような気持ちでジブチに派遣されてきている隊員の多さだ。中には、子育てを終えてから、自ら志願し参加している女性隊員もいる。

 自衛隊の10年に及ぶ派遣活動が海賊の発生を抑え、海域の安全を担保している。日本の安全保障にも深く関わるアデン湾。地政学的なチョークポイントでもあるジブチ。自衛隊駐留の意味はますます重要なものになっている。(文中敬称略)


 

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■「一帯一路」の衝撃 ルポ 中国に飲み込まれるジブチ・エジプト・ギリシャ
PART 1   中国マネーの甘い蜜に麻痺するシーレーンの要衝アフリカ・ジブチ
 1⃣鉄道、港湾、軍事基地 経済と軍事の表裏一体でジブチを飲み込む中国
 2⃣シーレーンの安全をアフリカの空と海から守る 自衛隊「海賊対処」の舞台裏
 3⃣ジブチの礎を支える日本 中国式との差別化のカギは「持続的発展」と「現地化」
 インタビュー  自衛隊がジブチで活動する意義 佐藤正久・外務副大臣
Part 2        「新首都」の建設と経済貿易協力区 水上の要衝・スエズ運河を取り囲む中国
Part 3         欧州の玄関港を"支配"する中国  「トロイの木馬」と化すギリシャ
Part 4         経済回廊でパキスタンを取り込んだ中国が抱える"ジレンマ"
Part 5     肥大化する一帯一路投資 「軌道修正」を図る中国
Part 6        「一帯一路」を「インド太平洋」で無害化

  
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◆Wedge2019年3月号より

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

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