2024年11月21日(木)

食の安全 常識・非常識

2019年4月18日

畝山:でもね、同じレシピのパンであっても、工場製で包装されたものは超加工食品で、職人さんが作った包装されていないものは違うなんて、おかしいでしょう。分類が恣意的です。それに、4の「超加工食品の摂取を重量で比較している」というのも大きなポイント。結局、重量の大きい炭酸飲料やジュースなどをたくさん飲んでいる人たちがみんな、「超加工食品大量摂取群」になってしまうのです。

松永:なるほど。水と糖分だけで他の栄養素が入っていない炭酸飲料などをたくさん摂っていれば、体に悪いに決まっている。そういうからくりか。なのに論文は、「超加工食品は香料や着色料、乳化剤、人工甘味料などの食品添加物で人の知覚をごまかしている」などと解説しています。結局、添加物は悪い、という先入観で論文を書いている。

畝山さんに疑問を投げかける筆者

調査参加者は、意識高い女性?

畝山:そもそも、調査がインターネットで行われており、調査に関心を持ち参加申込みしてきた人が対象です。その結果、参加者の8割が女性。こういう調査に集まってきて協力する人って、いわゆる“意識高い人”が多いかもしれませんよね。しかも、参加者が好きな日を選んで、24時間に何を食べたか申告するやり方です。これを、まともな調査と見るかどうか、という話です。

松永:それに、食事の自己申告は当てにならない、という話は、科学的にはかなり明白な事実です。日本人の食事摂取基準2015年版に詳しく書かれていますが、BMI高めの人は食事を過少申告するし、低めの人は過大申告する。自己申告と実際の摂取量は1、2割は違うというのが、世界の栄養学における常識です。

畝山:論文を読むと、BMI24ぐらいの人の摂取エネルギーが1800kcalしかありません。これは明らかに、参加者が過少申告していますよ。ただし過少申告の程度は、この手の研究では小さいほうです。アンケートによる食事研究はもともと精度の高いものではないです。

松永:試しに計算してみました。1800kcalの摂取というと、日本人ならまあ妥当かなあ、なんて思ってしまう数字ですが、フランス人は体格が大きいから、もっと多く食べないと体を維持できない。体重1kgあたり必要なエネルギーは一般に、30〜40kcalぐらいとされています。論文に記載されている身長とBMIから計算すると、参加者の平均体重は66kg。つまり、2000〜2600kcal程度、本当は食べているはずです。なのに、申告結果は1800kcalで少なくて、1〜2割ずれている。この段階で2割もずれていて、真実ではないデータを基に解析して、「リスクが12%上がりました」と言われても、「元が2割も違うのに信用していいの?」と思ってしまいます。結構いいかげんな調査かも、と考えるヒントになりますね。

悪い仮説は、的外れ

畝山:もっとダメなのが、論文の後半で書かれているディスカッションです。どうして超加工食品をたくさん食べているとリスクが上がるのか、ということで4つの仮説が提示されているのですが、毒性学、栄養学を多少ともかじっていれば、こんなディスカッションにはなり得ません。

松永:論文に書かれているのは (1) 超加工食品を多く食べているとエネルギーや塩分、脂質、糖質などが多くなりがちで、食物繊維や微量栄養素が不足する (2)食品添加物 (3) 加工によりできる、発がん物質アクリルアミドのような汚染物質 (4)プラスチックから溶出するビスフェノールAのような内分泌攪乱化学物質……という4つの仮説です。(1)は、炭酸飲料やジュースを多く飲むような食生活なら、まあそうなりますよね、という話ですね。

畝山:(2)の食品添加物にかんする考察で例として挙げられているのは、二酸化チタン(TiO2)です。この添加物について、国際がん研究機関(IARC)はグループ2Bの「ヒトに対して発がん性がある可能性がある(possibly carcinogenic to humans)」に分類していると記述しています。でも、この発がん性は吸入曝露によるものです。

松永:つまり、吸い込んだときに発がん性があるかもしれない、ということですね。

畝山:食品添加物を含む食品は、鼻から吸い込みませんよ。口からの摂取の安全性はきちんと確認したうえで、食品に用いられているんです。


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