世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2019年4月23日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

日本国際問題研究所研究員・未来工学研究所研究員・京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教

1993年生まれ。2012年米国ウエストバージニア大学において、国際政治学や通訳翻訳等を学び、2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。笹川平和財団安全保障事業グループ研究員、外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官を経て、現職。専門は、国際公共政策、パブリック・ディプロマシー、ストラテジック・コミュニケーション、メディア研究、世論等。

日本にも進出し始めた「チャイナ・ウォッチ」

 いまや米国を中心に世界展開される中国のプロパガンダ・キャンペーン。日本への影響が気になるところである。

 実は2016年から、毎日新聞においても、「チャイナ・ウォッチ」が掲載され始めた。例えば、昨年11月の同紙における「チャイナ・ウォッチ」は、「盛り上がるウィンター観光」との見出しに、ウイグル自治区を「日本・韓国・スイスに並ぶウィンター観光地」として2022年北京冬季五輪までに整備するという内容を紹介した。中国は、米国を始め、世界中から非難される中国のウイグル族への弾圧を、視点を変え、魅力的な地として宣伝・発信していると見られる。

 ガーディアンによれば、米国や欧州では、中国はその一国における複数の新聞メディアに資金を投じ「広告」を織り交ぜているが、日本に対しては、現時点では毎日新聞一社に絞られている。

図:世界の「チャイナ・ウォッチ」の現状
(出典:英国紙ガーティアンの報告書を元に筆者作成)
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 一方、米国においては、米国の東海岸から西海岸までの有力メディアを押さえていることからも、中国が全米メディアを重視していることは明白である。全米の「広告」掲載部数をすべて足しても、毎日新聞の方が多いが、部数の多少が中国の関心の大きさと比例するとは限らない。米国は日本と比較しても新聞自体の発行部数が極端に少なく、とりわけ日本は一般家庭への新聞の普及率が欧米と比較しても高いからだ。

 しかし、「チャイナ・ウォッチ」の日本進出には、中国なりの狙いがあると見られる。それが、日米離反であろう。米国の対中圧力が強まるにつれ、米国の同盟国である日本を米国から切り離すことが、中国にとって重要になったと考えられる

日米間の認識ギャップが浮き彫りに

 筆者の経験に基づけば、2012年9月に米国において「尖閣諸島は中国に帰属する」との「チャイナ・ウォッチ」の折り込みが出回っていた頃、米国の大学でも、尖閣諸島をめぐる日中対立が講義で取り上げられていた。講義の中では、中国当局が「広告」の中で使用した尖閣諸島の写真が使われ、大きな階段教室の一番奥にある巨大スクリーンにパワーポイントで映し出された。

 「アジアではこんな小さな岩のような島を巡って対立している国もある」といった内容で、尖閣諸島を巡る日中対立について講義が行われたが、概要の紹介のみで、なんともあっさりと終わったことに違和感を覚えた。同盟国である米国でも、大学などでは日本の立場が支持されているわけではないのだ。

 まさに、尖閣諸島をめぐる日中対立の最中、日本では一部ネットなどで中国叩きもあり、政府や外務省も対応に追われていたが、リアルタイムで目にし、耳で聞いた米国の反応や立場は、日本とは大きな温度差があるように感じられた。

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