食の安全 常識・非常識

2019年9月27日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

(写真提供:筆者)

 豚コレラ問題は、非常事態に陥っています。9月13日、岐阜、愛知から飛んで埼玉県秩父市の養豚場で、同県初の感染を確認。さらに、17日には秩父市の養豚農場から約5.5km離れた小鹿野町の農場で埼玉県2例目の豚コレラ発生が判明しました。また、長野県でも14日、県畜産試験場で感染がわかり、18日にも続きました。

 江藤拓農水大臣は14日夜の緊急対策会議で「ステージが変わった」と挨拶し、20日にワクチン接種を始めることを明らかにしました。でも、すぐに接種できるわけではないのです。防疫指針変更などの手続きに2カ月以上かかる見込み。接種エリアもまだ決まっていません。ステージが変わったわりには、遅すぎませんか? 現場は一分一秒でも早くワクチンを、と焦っています。

 日本養豚開業獣医師協会(JASV)理事で、神奈川県で開業し全国の養豚農家を顧客として抱える大井宗孝さんに話を聞きました。JASVは、多くの獣医師が加入し、日本の養豚農家の3割がコンサルティングを受けている組織です。

 大井さんは2010年、口蹄疫が宮崎県で発生した時にも現地にかけつけ、防疫処置に関わってきました。その教訓も踏まえつつ、あくまでも個人的見解ですが、と前置きした上で、大井さんはこう言います。「この問題は、国の危機管理事案です。国の責任で早く、発生県だけでなく、首都圏のほかの県まで含めてワクチン接種すべきです。それも、一分一秒でも早く接種して豚を守らなければ」。

 多くの獣医師や養豚農家から「早く」という声が聞こえてきます。大井さんに代表して語っていただきました。

(これまでの経緯、豚と野生イノシシの関係、ワクチン接種の意義等については、前回記事「なぜ日本は豚コレラの流行を止められないのか」http://wedge.ismedia.jp/articles/-/17264を参照ください)

大臣は接種を表明したが、実際には2~3カ月後

 豚コレラが国内で昨年9月に発生してから今年7月の31例目まで、発生は岐阜県と愛知県に限られていました。大阪府、滋賀県、長野県でも一例ずつ発生していましたが、愛知県の繁殖農場から感染した子豚が運ばれていたため殺処分に至ったもの。これらの府県ではその後の感染拡大はなく、とくに長野県では多数の感染イノシシが見つかってはいたものの、豚舎への感染は食い止めていました。

 ところがその後、三重県と福井県の養豚農家で発生。さらに9月、埼玉県へ飛び火し、長野県でも豚の感染が始まりました。

 江藤農水大臣は、ワクチン接種の決断にあたって理由の一つとして「関東という非常に飼養頭数の多い地域に拡がってしまう懸念が非常にある」と説明しています。茨城県は55万頭、群馬県が63万頭、千葉県が66万頭を飼育しています。岐阜の11万頭、愛知の33万頭よりはるかに多いのです。こうした養豚県に豚コレラが拡がると、国産豚肉の供給は大きく揺らぎます。

 現在の「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」では、予防的ワクチンの接種はできないとされ、大臣は指針改定の着手とワクチン増産を公表しました。

 具体的には、専門家を集めた「食料・農業・農村政策審議会牛豚等疾病小委員会」を開催し、防疫指針の改定作業を急ぎ、都道府県へ意見照会。さらには国民の意見を聞く「パブリックコメント」を実施。そのうえで、食料・農業・農村政策審議会の答申を経て指針改定。それが済むと、都道府県知事が予防的ワクチンの接種を養豚農家に命ずることができるようになる、と説明しています。

 防疫指針は昨年改定されていますが、その際にはパブリックコメントを1カ月行いました。今回、期間をいくぶん短縮し、専門家の審議等を早めても、接種開始までに2〜3カ月はかかる見込みです。大井さんに聞きました。「こんな悠長なことをしていて、流行拡大を阻止できるのでしょうか?」

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