世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年10月31日

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 10月11日、世界第1と第2の経済大国である米中両国は、18カ月の貿易戦争の中で初めて「第一段階」の合意に至った。

panemoj/iStock / Getty Images Plus

 これによると、中国は、今後2年間で、米国から農産物を、年間400億~500億ドル(約4兆3300億~5兆4100億円)相当輸入することになった。米中貿易戦争で出荷が落ちていた農家が、今後上向くことになる。また、この合意には、米国の知的財産権を中国が保護する措置を取ることや、米国の金融サービスへの市場開放も含まれると言う。

 米中の貿易戦争が休戦したことは、両国にとっても世界経済にとっても良い材料である。経済に実害を与えていることを考えれば、長期交渉にならざるを得ないグランド・ディールよりも、早期に部分合意を図るとのアプローチは、より良いものである。株式市場も合意を歓迎し、上昇した。しかし、すぐに勢いを失った。余り大した内容ではないと見たのかもしれない。農産品の大量買い付けで市場アクセスだけは拡大したかもしれないが、構造問題にどれほど踏み込めたかどうかわからないからである。

 10月11日の合意が、実際に米中の最終合意になるかどうかも疑われている。昨年12月アルゼンチンでのG20首脳会議の際、米中両国は、首脳会談で貿易戦争の休戦に合意し、トランプは米中交渉のブレイクスルーを発表したが、その後、最終合意には至らなかった前例がある。米中両国は、これから文書化の交渉をする。その過程で問題が出てくる可能性も排除しきれない。10月14日、ムニューシン米財務長官は、米中が第一段階の合意に署名できるよう両国当局者は今後数週間かけて作業すると述べた。

 今回、中国は、したたかに交渉したように見える。トランプ大統領だけが大々的に合意の成果を宣伝しているが、中国は「冷ややかな」反応を示しているという。中国は農産品については譲歩したのだろうが、その他では全く譲歩していないようにも見える。出来るだけ市場アクセスに留め、政治体制に波及する構造改革には踏み込ませない考えだろう。中国はトランプの焦りを見抜いているようだ。知財の保護強化などで、中国は具体的に何を約束したのか分からない。今 後の交渉の帰趨を注視する必要がある。最終合意が出来るまでは分からない。

 トランプ大統領は、今回の貿易戦争の休戦が、2020年の選挙が終わるまで続くと想定し、次回は中国と強硬な交渉をしようとしているのかもしれないという。トランプは、今回が第一段階の米中合意であり、第二段階、第三段階の合意のために交渉をする旨述べたが、レトリックかもしれない。大統領選挙の前に更に本格的な交渉をするつもりなのか、あるいは選挙前にはもう次の本格的な交渉はしないことを意味するのかは判然としない。今回、紛争解決と実施監視の協議メカニズムに合意したとすれば、当面、第二段階の交渉はないようにも見える。トランプの交渉は何とも分り難い。

 いずれにしても、今回の第一段階の米中貿易合意が最終的にまとまれば、トランプ大統領と習近平主席が、どこかで首脳会談を開催し署名することになるのだろう。

  
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