2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2019年12月17日

石炭労組からトランプへの恨み節も

 米国では20世紀初め約80万人の炭鉱労働者が年間5億トンの石炭生産を行っていた。その後、鉱山機械の導入による生産性の大きな改善があり、100年後の21世紀初頭年産数量が2倍の10億トンに達したにもかかわらず、労働者の数は10分の1以下に減少した。かつて炭鉱労働者の大多数は炭鉱労働者組合(UMWA)に属していたが、非組合員が多い露天掘り炭鉱の生産が増加を始めた頃から組織率が低下し始め、30年前に50%を切り今の組織率は21%になっている。1990年代前半まではUMWAと石炭会社間の労働協約改定時ごとにストライキが発生し州兵が出動する騒ぎもあったが、いまやストライキもなくなった。

 米国では伝統的に労働組合は民主党支持、経営者層は共和党支持で分れている。UMWAも例外ではなく、かつては民主党支持であり2008年の大統領選ではオバマ大統領を支持した。しかし、オバマ大統領と共和党ロムニー候補の争いになった2012年の大統領選では、UMWAはどちらの候補も支持しないとした。オバマ大統領が石炭生産の減少につながる気候変動政策に力をいれることを明確にしたためだった。

 2012年の大統領選ではマリー・エナジーの炭鉱労働者がロムニー候補の支持集会に駆けつけ壇上からエールを送るなど、一部組合員は実質的に共和党を支持した。炭鉱労働者の数は今、5万人強まで減少しているが、石炭輸送、炭鉱への資機材供給などの関連分野の労働者を含めると石炭関連産業で働く人は100万人と言われている。2016年の大統領選挙では石炭生産州のペンシルバニア、ウエスト・バージニア、オハイオ、ワイオミング州などを軒並みトランプ大統領が征し当選の原動力になった。

 トランプ大統領の石炭支援策にもかかわらず、石炭生産量の落ち込みには歯止めがかからない状況が続いている。UMWA委員長は今年9月の記者会見時、気候変動対策を課題として打ち出す民主党大統領候補を組合員の仕事を奪っていると非難する一方、石炭は復活したとのトランプ大統領の発言も批判し、誰も石炭を復活させることはできないと述べた。石炭生産の減少が続くのは、国内石炭消費の9割以上を占める発電部門での石炭離れに歯止めがかからないためだ。

閉鎖される石炭火力発電所と落ち込む需要

 米国では石炭火力発電所がかつて最大の電源であり2000年代前半まで約5割の供給を行っていた。シェール層と呼ばれる固い岩盤中の天然ガスを商業的に取り出す技術を確立させたシェール革命が2000年代後半から始まったことで、天然ガス火力に対する価格競争力を石炭火力は失い発電所の閉鎖が相次いだ。

 2005年発電量の50%を占めていた石炭火力シェアは、2010年45%、2018年27%と下落し(図-1)、天然ガス火力が石炭に代わり最大の発電源となった。シェール革命により天然ガス生産量が急増し(図-2)ロシアを抜き世界最大の天然ガス生産国になり、天然ガス価格も下落したことがこの背景にある。天然ガス価格の下落により(図‐3)の通り発熱量当たりの石炭価格との差も縮まっている。

 

 天然ガス価格が石炭価格を依然上回っているが、石炭火力では貨車あるいは艀から荷下ろしする手間がかかり、ボイラー投入前に粉砕処理が必要であること、さらに燃焼後に生じる灰の処理、環境対策費用が必要なことから、発熱量当たりの価格差がある程度あっても天然ガスが選択されることになる。特に炭鉱から離れ石炭輸送が必要になる発電所ではパイプラインで運ばれる天然ガスが競争力を持つことになる。

 石炭火力からの発電量の減少により石炭生産量も波を描きながら減少を続けており(図-4)、破綻する石炭会社も増えている。マリー・エネジーは今年8番目の石炭会社の破綻になった。今まで破綻した石炭会社は負債を切り捨て更生法に基づき生産を継続することが多かったが、需要が減少する中で生産の継続も困難になりつつあり、会社更生を諦め破産する石炭会社も出てきた。石炭会社を取り巻く環境が厳しくなっている背景には天然ガスとの競争に加え、再生可能エネルギーが競争力を付けていることもある。


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