2024年4月26日(金)

田部康喜のTV読本

2019年12月20日

初期消火もシナリオ通りに進まない

 「パラレル東京」の首都直下地震の被害の前提となっている、政府の予測によると、1都3県で倒壊・全壊の家屋は約17万5000棟、焼失は41万2000棟に及ぶ。東京消防庁の推定によると、木造密集地域の811カ所で火災が発生する。これに対して、消防車は660台、うち出動できるのは500台である。火災にあたっては、2台の消防車が異なる正面方向から放水する。1台の放水では、かえって炎を隣接家屋に押しやるからである。

 倒壊家屋やビル、大渋滞を考えると、初期消火は難しい。首都は、3日間にわたって燃え続ける。阪神・淡路大震災のときと同じである。消火の結果ではなく、燃え尽きて鎮火するのである。

 シリーズのドラマも、このシナリオ通りに、消火活動が進まないなかで、世田谷区で「火災旋風」が発生する。関東大震災や、戦時中の米軍による東京大空襲でもこの旋風は起きた。火事による上昇気流によって、旋風の高さは200メートル以上に達する。家屋や人を巻き上げ、熱風は家屋を焼き尽くす。

 専門家は、火災旋風が近づいたら、コンクリートの建物に入ったうえで、窓から離れて伏せの姿勢をとるしかない、という。それでも、これは「逃げ遅れ」だと強調する。火災の炎が立ち上ったのをみてから避難しては、間に合わないのである。

 東日本大震災では、三陸沿岸の津波に関する言い伝えが注目された。地震が発生したら、津波がくるのは間違いないと考えて、一人ひとりがてんでに逃げる「てんでこ」である。火災旋風に対しても、遠方の小さな炎や煙を見た段階で「てんでこ」が必要だ、と専門家は強調する。

 ドラマは、ニュース・センターが自治体の判断を待たずに、SNSを分析して避難を呼びかけるべきかどうか、のぎりぎりの判断に迫られる。

 荒川の堤防が液状化によって、決壊する可能性を示唆するSNSの写真だった。時系列にみていくと、堤防の頭頂部が徐々に沈下しているのがわかった。荒川沿岸の海抜「ゼロメートル地帯」の人々に避難を呼びかけるかどうか。スタッフのもたらした、SNSの映像とデスクらの判断をもとにして、キャスターの倉石(小芝)は、「ゼロメートル地帯の方は逃げてください。逃げてください。逃げて!」と最後は叫び声に近い実況をする。

 自治体の避難勧告も出ていない状況での放送に反対する、報道部門の責任者をさえぎって、副編集長の大森(小市)もゴーサインを出した。

 シリーズの再放送が待たれる。ドラマ部分を編集して、特集ドラマとしてもよいのではないか。

   
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