2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年1月30日

 今回のテーマは、「選挙運動化する弾劾裁判」です。トランプ弾劾裁判において28日、3日間にわたるホワイトハウス弁護団による冒頭陳述が終了しました。弾劾管理人による陳述と同様、筆者は未明に起きてライブ中継を朝まで見ました。そこで本稿では、弁護団の陳述の中で、彼らの意図が明白に現れた箇所を紹介します。

(REUTERS/AFLO)

強い政治色

 トランプ大統領の弁護団を率いるパット・シポローネ法律顧問は冒頭陳述で、「民主党は9カ月後に行われる大統領選挙の投票用紙からトランプ大統領を排除しようとしている」と反論しました。そのうえで、「民主党こそが選挙介入を行っている」と強調しました。この議論の意図はどこにあるのでしょうか。

 民主党のトランプ弾劾理由は「法的根拠はなく、政治的動機づけによるものだ」という認識を、米国民に持たせる狙いがあります。

 さらにシポローネ法律顧問は、トランプ大統領のウクライナに対する軍事支援保留の理由として、「腐敗」と「負担金」を挙げました。トランプ氏は同盟国によるウクライナへの負担金増加を求めているので、同国に対する軍事支援を保留したと述べました。

 これに関連して、マイケル・パープラ次席法律顧問は、トランプ大統領が19年9月、アフガニスタンに対する1億ドル(約109億円)の支援を取りやめ、別に6000万ドル(約66億円)を保留した例を挙げました。支援中止及び保留の理由は、アフガニスタン政府の腐敗にあったと説明しました。

 パープラ次席法律顧問は、トランプ大統領は腐敗したウクライナに対しても支援はできないと言うのです。パープラ氏の議論には、トランプ氏を「腐敗を懸念している大統領」として描く意図がはっきり見えます。弾劾管理人が、同氏を「腐敗を気にかけない大統領」と批判をしているからです。

 加えてパープラ氏は、トランプ大統領の在韓米軍駐留経費負担増額の要求にも言及し、「米国民のためにフェアな負担を同盟国に求めている大統領」というメッセージを発信しました。

 これだけみても、ホワイトハウス弁護団の議論の仕方は、弾劾管理人のそれとかなり異なっていることが分かります。弾劾管理人は、関連文書・記録及び証人の証言のない裁判は公平ではないと主張し、民主主義に訴えました。一方、弁護団はかなり政治色が強い議論を展開しました。

「リンケージ(関連)」

 ホワイトハウス弁護団が冒頭陳述で頻繁に使用した言葉は、「リンケージ」でした。パープラ次席法律顧問は、ウクライナへの軍事支援保留及びホワイトハウスでのトランプ大統領とウィロディミル・ゼレンスキー大統領の首脳会談実現は、ジョー・バイデン前副大統領並びに息子のハンター氏の調査とは「全く関連がない」と繰り返し主張しました。続けて、「これが事実だ。(民主党の)弾劾は失敗だ」とまで言い切りました。

 ただこの議論は、ジョン・ボルトン元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の証言が実現すると、覆る可能性が出てきました。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、ボルトン氏は3月17日に出版予定の著書の中で、「トランプ大統領が昨年8月、ウクライナがバイデン親子の調査に協力するまで、軍事支援を凍結したいと語った」と暴露しています。つまり、軍事支援保留、トランプ・ゼレンスキー首脳会談の実現とバイデン親子の調査は関連があったということになります。

 トランプ大統領は早速、自身のツイッターに「私はジョン・ボルトンにウクライナへの支援は民主党の調査と結びついているとは決して話していない。(中略)彼は著書を売りたいだけだ」と投稿しました。

 要するに、17カ月間大統領補佐官を務めたボルトン氏は、嘘つきで著書で金儲けをしたいからだといいたのでしょう。ただ、ボルトン氏は保守強硬派で、正直にストレートに語る人物という評価を得ています。

 トランプ大統領の顧問弁護士のジェイ・セクロー氏は28日の冒頭陳述で「ニューヨーク・タイムズ紙が入手したボルトン氏の原稿は証拠にはならない」という見解を示しました。裏返せば、トランプ大統領の投稿とセクロー氏の陳述には、ボルトン氏の証人召喚を阻止する意図を読み取ることができます。


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