理事会は例年3月に行われる。しかし、08年には予定していた日に理事会が開かれず、会計監査報告も提出されなかった。月に1度開催する例会が4月21日に開かれた際には、脱税に関する調査を行うべきだという提案が出されたが、意見がまとまらず、休会となった。これ以降、理事の李敏はさまざまな理由を提示し、例会の開催を見送った。
党・検察が強権発動し理事の株式を奪取
例会も理事会も開けないなか、徐有輝と徐斌が10日間に及ぶ区の規律検査委員会(共産党組織)の取り調べを受けた。また、7月15日になってようやく、4ヶ月遅れで理事会が開催されることになったが、区の規律検査委員会副書記が会場入口に座り込み、突然開催を阻止した。
8月18日、理事会が開けなければ経営に支障が出るとして、理事の許栄華が理事会及び株主総会の開催を求めて区の裁判所に提訴した。しかし、同月28日には、今度は許が別に経営している福尔喜公司に対し、牧羊集団が商標権侵害の訴訟を起こした。理事である許の知らないうちに提訴したと見られる。その上、区の工商局が商標権侵害の事案は深刻な問題に発展する可能性があるとして公安局に連絡、許は9月10日に台湾視察から戻るとすぐに拘束され、その後35日間、楊州市看守所に拘禁されたのである。
看守所にいる間、許は区の人民検察院検察長の王亜民に「株式を譲渡すれば無罪放免する」と迫られ、仕方なく株式譲渡の書類にサインした。譲渡先は牧羊集団の工会(労働組合)主席・陳家栄で、譲渡額は1660万元だった。譲渡された株式の価値は1億5000万元を下らないと見られる。つまり、1660万元というのは破格の安値だ。その上、権力も予算も乏しい工会主席が1600万元以上もの多額の資金を準備できるとは考えられなかった。
「案の定」というべきか、陳家栄は株式をすぐに総裁の範天銘に譲った。許が看守所を出ると、牧羊集団は許の企業・福尔喜公司に対する商標権訴訟を撤回した。許は株式譲渡を無効とする手続きを請求したが、裁判所からは何の音沙汰もないという。
なぜ、許は株式を半ば奪われるような形で範に譲渡しなければならなかったのか。3人の理事に対する取り調べや拘禁は違法行為である可能性が高い。
公権力を濫用する政府・党・司法機関
以上2つの事例は、いずれも複雑な人間関係や企業の経営状況が絡んでおり、直接取材したわけでもない私が全貌を正確に把握することは難しいが、政府・党・司法機関が公権力を濫用しているということは確実に言える。
牧羊集団の事例では、党の規律検査委員会が党幹部でもない者を突然取り調べのために拘束したり、一民営企業の理事会の開催を阻止したりしている。検察長は「無罪にして欲しいなら株式を譲渡せよ」と迫った。南陽奥奔に対しては「黒社会の性質を帯びている」とするが、一体「黒社会」をどのように定義するのか。なぜ、拷問で自白を強要しなければならなかったのか。
「黒社会化」する地方政府 民営企業を狙い撃ち
直面する8つのリスク
このように民営企業が狙い撃ちされるのはなぜなのか。一言で言うなら、地方の党・政府・司法機関が癒着し、「黒社会化」しているからだろう。権力を振りかざし、自らに都合よく利益を確保しようとしているのだ。
前出の陳有西弁護士は「金融秩序と司法公正研究会」において、民営企業家が直面する8つのリスクを説明している。以下、その要点をかいつまんで整理しよう。