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(1)企業家は近年広まりつつある「金持ちは犯罪人で、先に豊かになることは許されない」という絶対平均主義的な思潮に対抗しなければならない。
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(2)「打黒」の拡大に対応しなければならない。当局は「企業の警備員が人を殴った、脱税だ、領収書の偽造だ」などと罪を掘り起こし、企業に「黒社会」の帽子を被らせ、死刑や無期懲役など重い罪を着せる。
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(3)「富の再分配が必要だ」とする公権力が司法の武器を持って企業家の財産を奪う。
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(4)腐敗が当たり前の現状において、企業家は土地の取得、さまざまな許認可、納税面の優遇などに関してレント(参入規制によって生じる独占利益や寡占による超過利益)を獲得・維持するために権力に屈せざるを得ないが、賄賂罪で逮捕されるリスクも抱える。
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(5)役人は短期間でGDPや財政収入の増加などの業績を上げようと企業家に群がるが、そのためには前任者が実施していたプロジェクトを変更したり、停止したりもするため、企業家はそうした動きに振り回される。
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(6)地方の役人には法律の知識を欠いており、民営企業を国有企業のように扱い、企業の人事や経営に介入する者が少なくない。
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(7)『刑法』の度重なる改正で100以上の市場経済秩序に関する罪名が加えられたことにはよい面もあるが、地方権力に不当に介入する契機を与えたり、より多くのレント追求の余地を与えたりと、悪く働く場合もある。
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(8)役人が企業家に嫉妬し、「自分に従わないならトラブルを押し付けてやる」というような事態が起こり得る。
他人事ではない日本企業 リスク管理急げ
以上のようなリスクが高い地域では、冤罪が大量に発生している可能性がある。また、不安を抱える多くの成功した企業や企業家は財産を海外に移している。企業家やその家族は海外移住の準備を進め、既に移住した者も少なくない。このような状況が続けば、企業家の投機心理に拍車がかかり、安定的に産業を発展させることができなくなる。司法が公正でなければ国民経済に打撃を与えることは必至である。
「打黒」(黒社会撲滅)を大合唱していた重慶市では、その主であった薄熙来が権力を行使し、いわば「黒社会化」していた状況が次々に明らかになっている。薄は日本企業が多数進出している大連市の市長や遼寧省の省長、商務部長を歴任しており、多くの日本企業関係者が薄やその関係者とのパイプ作りに精力を費やしてきた。薄の解任によって打撃を受けている日本企業も少なくないだろう。
こうした企業は、ある意味で腐敗した中国の政治体制を利用してきたと言える。しかし、そうしたやり方は長い目で見て中国社会に、そして日本企業にどのような影響を及ぼすのだろうか。
中国をとりまく政治リスクは、本コラムで紹介した民営企業の事例を見れば明らかである。日本企業も中国企業の事例を「他人事」と考えず、リスク管理を強化すると同時に、短期的な利益だけを追求するのではなく、もっと大きな視野から中国をとらえ、中国と付き合うべきではないだろうか。
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