海野素央の Love Trumps Hate

2020年2月10日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

原稿を破り捨てた本当の理由

 祝勝会での1時間以上にわたる演説の中で、トランプ大統領は一般教書演説において原稿を破り捨てたペロシ下院議長を「実にひどい人間」と述べて批判しました。ペロシ下院議長は記者会見で原稿を引き裂いた3つの理由を明かしました。

 第1に、トランプ大統領が今後1年間の内政及び外交に関する施政方針を示す一般教書演説を、リアリティ番組に変えたことです。ペロシ氏は詳細について述べませんでしたが、妻と子供たちに伝えずにアフガニスタンから帰還した軍曹が、上下両院合同本会議場で再会するという場面を演出したことを、おそらく指摘しているのでしょう。

 加えて、トランプ支持者に人気がある保守派のラジオパーソナリティのラッシュ・リンボウ氏に「大統領自由勲章」を贈呈するという演出も含まれているでしょう。

 米公共テレビ(PBS)のホワイトハウス担当記者は、今回の一般教書演説を「選挙集会とリアリティ番組の融合」と表現しました。確かに、再選のための演説とテレビ向けの演出を結合させた一般教書演説でした。

 第2に、トランプ大統領が演説の中で、現行の医療保険制度に触れ、既往症のある患者が医療保険に加入できるメリットを自分は守ると、述べたことです。バラク・オバマ前大統領は、オバマケア(同大統領の医療保険制度改革)で既往症を持つ患者の医療保険加入を認めました。

 ペロシ下院議長は、トランプ大統領の発言は事実とは全く異なると、語気を強めて語りました。ペロシ氏によれば、トランプ氏は既往症のある1億3000万人がオバマケアから受けるメリットを廃止しようとしており、それに対して民主党は裁判で戦っています。ペロシ氏はトランプ氏の発言を「虚構の陳述」と表現し、「彼が話すことを信じるのは危険だ」と主張しました。

 第3に、トランプ再選を支持する共和党議員らが「もう4年間」と合唱したことです。ペロシ下院議長は、上下両院合同本会議での選挙運動は「不適切」として批判しました。一般教書演説の品位を下げたからです。

 以上が、ペロシ下院議長の説明でした。

 トランプ大統領の一般教書演説の最中、中西部アイオワ州党員集会で集計トラブルを起こした民主党は、集計作業に追われていました。米メディアから民主党は「大失態を演じた」と非難されました。加えて、民主党党員集会の勝者が確定しない状況で、米メディアの中には「本当の勝者はトランプ大統領」と報じたメディアもあります。

 このような屈辱的な状態に直面したペロシ下院議長は、トランプ大統領の原稿を破り捨てるという極めて異例な行動に出て、大統領に対する挑戦を継続するという意思表示をしました。同時に、身内の民主党員を奮い立たせるために檄を入れました。

 結局ペロシ氏の異例の行動は、一般教書演説でトランプ大統領が見せた様々な演出よりも強烈な印象を残しました。

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