ダイナミックプライシングという言葉を、耳にしたことがあるだろうか。英語ではサージプライシング、ディメンドプライシングなどとも呼ばれることがある。
日本語では、変動料金制という言葉がもっともわかりやすいかもしれない。そのもっとも身近な例は、航空運賃と宿泊費だ。
アメリカでは、学校が夏休みに入る6月のはじめから新学期が始まる9月の頭まで、航空券の価格が高騰する。夏休みシーズン以外でも、人々が実家に集まって祝う11月の感謝祭などの前後は、やはり航空券の価格が高い。飛行機だけではなく、長距離電車のアムトラックのチケット代も、やはり混雑具合によって前後する。
日本では、東京オリンピックの開催中に都内のホテルが普段の数倍に跳ね上がる一方で、現在新型コロナウィルスで中国からの観光客が激変した京都はホテル代が暴落しているというニュースを読んだ。
海外出張の多い筆者は、取材日程が決まるとすぐに飛行機の予約を入れる。現地入りしてから、同じく東海岸から来たアメリカ人の記者たちと「飛行機代いくらだった?」という話題が出ることがあるが、予約時によって払った価格がかなり違うことは珍しくない。早目に予約を入れておくと大概、直前にとるよりも2割程度は安い。
このように普段、我々は知らない間にこのダイナミックプライシングを当たり前のように受け入れてきた。
人気の具合で露骨に価格が変化
ニューヨークではこのダイナミックプライシングがエンタテインメント業界にも導入されてきた。
カーネギーホールの広報責任者、シニーヴ・カルリーノ氏によるとカーネギーホールではこの制度を取り入れたのは、およそ10年ほど前だという。
「売れ行きによって、チケット単価が上昇したり、逆に下がったりすることはあります。ただどのくらい売れれば何パーセント上がるというスタンダードな数値があるわけではありません。また航空運賃や宿泊費ほど、小刻みに変動はしません。コンサートによっては、売上開始から当日まで、価格がまったく変動しないこともあります」
ベルリン交響楽団やエフゲニー・キーシンのような人気アーティストをオリジナル価格で見たければ、発売と同時にチケットを買うしかない。
主に観光客が対象のブロードウェイでは、もっと露骨にダイナミックプライシングが実行されてきた。導入されるようになったのは、やはり2011年くらいからだという。
それ以前はハリウッドスターが出演するなど人気が予想されるショーでは、一部の特等席をプレミアム席として高価格で販売していた。また合法の仲介業者であるチケットエージェントを通して、人気のチケットが高額で売買されることもあった。だが劇場側が正規価格を売り上げ状況に応じて上下させるようになったのは、ここ10年くらいのことである。
ニューヨークタイムズによると、ダイナミックプライシング導入の背景には、発売と同時にチケットを抑えて非合法に転売をするダフ屋などの存在もあるという。転売者ではなく、劇場と出演者たちに収益を正しく分配するためにダイナミックプライシングを採用したというのが、プロデューサー側の主張だ。