理解できない中でも共有できる課題
日本が韓国を理解できないだけでなく、日本国内での韓国への評価も大きく分断されている現状も本著は示す。日本の若者にとって今、韓国は「あこがれ」の存在となっているというのだ。『冬のソナタ』を契機に起きた第一次韓流ブーム、K-POPが注目された第二次韓流ブームと異なり、現在到来している第三次はSNSにより化粧品や食品が人気を呼ぶデジタル時代ならではのものとなっている。話題を集める場所もこれまでのマスではなく、女子中高生といったピンポイントとなっている。
これに対し、中高年の男性が「嫌韓」と言われるようなヘイトスピーチをネットに書き込み続ける行動も起きている。ヘイトスピーチは若者が憂さ晴らしのために行っているのではなく、定年退職後の男性がウェブ上で嫌韓的な言動に触れ、そうした考えに染まっていってしまっていることが多いと指摘する。「中高年以上の日本人が『上から目線』を捨てきれないのではないか」と本著で分析している。
経済的にも、政治的にも「史上最強」とも評される韓国に日本はどう付き合っていくべきか。その一つのヒントとして、少子高齢化に伴う外国人労働者の受け入れや介護といった社会的な問題が日韓で共通していることを挙げている。「韓国は90年代半ばまで日本式のシステムの上で社会を構築してきた。戦前からの骨格が残る法律ならば、韓国語がわからなくても六法全書には漢字が多いので読んでなんとなくわかるほどだった」と澤田氏は話す。同様の社会システムを取り入れたからこそ、同じような課題に直面しているというのだ。さらに、少子化のペースは韓国の方が早いという。
「日本は『唯我独尊』のような構え方をする傾向があるけれど、韓国は世界の流れに合わせてすぐに新しい施策を導入する。もちろん、失敗することもある。スクラップアンドビルドで進めている。日本からしたら、失敗も含めて参考にしやすい」。これまで、韓国が日本を研究材料にしてきたことが多かったが、これからは日本が韓国の取り組みから研究する良い材料となるのだ。自国の社会政策を考えるために韓国を研究することで、韓国という国の今を知ることができるのであろう。
ただ、ここで注意が一つ。韓国語を日本語に直訳すると、本来の意味以上に重いニュアンスになることが少なくないという。「漢字語の使用は、韓国語の方が日本語よりはるかに多い。たくさん使うから日常化していて、ニュアンスが弱くなるのだろう。それをそのまま日本語に移すと、日本人には実際以上に重く受け止められる」。典型的なのは「歪曲」という言葉で、韓国語の方が明らかに気軽に使われているという。また言葉による政治闘争で宮廷内の権力を争った朝鮮王朝の歴史のためか、言葉による攻撃には敏感だという。「日本が竹島についての防衛白書や教科書での記述を強めるだけで、『挑発だ』と強く受け止める」のだそうだ。
韓国からの発信や主張を目にする時には少し心に留め置いた方が良いかもしれない。
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