2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2020年3月27日

信頼できる専門家が1カ所から発信することが必要

―― 人々の不安をやわらげるにはどうしたら良いのか。

加藤 人々は目に見えないものに恐怖を感じる。病原体、化学物質、放射能などがその代表的な例だ。ただ、はるか昔にはわからなかった感染症も、科学の発達で病原体(細菌、ウイルスなど)が「見える」ようになった。こうした情報を政治家ではなく、信頼できる専門家が1カ所から発信することが必要だ。

 参考となるのは米CDCだ。私は、2002年10月1日から2005年9月30日まで3年間、CDCに客員研究員として滞在していた。そのころCDCでは、米政府機関に封筒に入れられた炭疽菌が郵送された事件への対応や、イラク戦争のバイオテロに備えた米国兵士60万人へ天然痘予防のためにワクチン接種(種痘)の対応、そしてSARSへの対応を行っていた。

 そんな中、当時のCDC長官(2002~2009年)のJ. L. Gerberding がCDCがSARSウイルスの全ゲノムを解析した折、「調査の開始からまだ31日しか経っていないが、われわれはすでに国際的な協力体制をとっており、有力な原因を特定している。このウイルスのゲノムも解読した。診断方法も多数考え出した。科学がここまでできたことは、歴史上例がないのではないか」と政権とは独立した立場で常に発信を続けていた。その発信が米国民のパニックを最小限にしていた。

 日本にも恒常的に感染症対策を検討・研究し、それを信頼される形で情報発信するが機関が必要だ。ところが、現実には、安倍晋三首相が条件を明示せずに小中高の一斉休校を要請し、人々の不安感を高めてしまった。政治家や各省庁がバラバラではなく、一カ所から、透明性をもって信頼できる情報発信をしなくては、国民が納得して連帯することはなく、感染症対策は効果を発揮できない。

―― COVID-19のような感染症は今後も出現するのか。

加藤 WHOは1970年ころから今まで人類が認識していなかった病原体が初めて見つかった感染症を「新興感染症」(Emerging Infectious Diseases)と呼んでいる。新興感染症は21世紀になってからも、2002年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、そして2012年のMERS、2014年の西アフリカでのエボラ出血熱の流行、2016年のブラジルでのジカウイルスの流行、そして今回のCOVID-19と続いて発生している。

 グローバル化の進展により、人々がこれまで入り込まなかったアフリカや南米、アジアの奥地に入るようになり、これまで接していなかった動物から新たな感染症をもらうようになった。新興感染症のほとんどは動物起因だ。そして、航空網の発達で人やモノが急速に大量に移動することでそれが短時間で運ばれている。新興感染症はいつでも来ると認識しておかなければならない。そして常に備えるという姿勢が必要だ。

【加藤茂孝 Shigetaka Katow】
保健科学研究所学術顧問。1942年三重県生まれ。専門はウイルス学、特に風疹ウイルス。東京大学理学部卒業、同大学院修了。理学博士。国立感染症研究所室長、米CDC客員研究員、理化学研究所チームリーダーを歴任し、現職。著書に『人類と感染症の歴史』(丸善出版)等。

  
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