2024年12月23日(月)

田部康喜のTV読本

2020年3月26日

(Ca-ssis / gettyimages)

 新型コロナウイルス感染症において、日本は大型クルーズ船の患者の大量発生や、検査件数の少なさから、世界が大規模な流行である「オーバーシュート」を懸念したにもかかわらず、感染者数と死者ともに各国のなかで相対的に小さな数字にとどまっている。日本人の清潔感や政府の防御策に対する従順な対応が奏功している、という見方から当初の危機感が薄れていたのではなかったか。

 東京都の小池百合子知事は25日の記者会見で、ついに「感染爆発(オーバーシュート)の重大局面」を宣言した。感染経路のわからない患者の発生が増加したからだ。

 NHKスペシャル「“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~」(3月22日)は、厚生労働省が2月25日に感染症の専門家ら約30人を集めて作った「新型コロナウイルス クラスター対策班」に、メディアとしては初めて密着取材を試みた。

 中国・武漢市と湖北省から始まった、ウイルスの第1波に対しては政府、自治体と保健所などの現場、そしてクラスター班の不眠不休の活動によって、オーバーシュートは食い止められているが、欧米や中近東のオーバーシュートの第2の波が日本に打ち寄せたらどうなるのか。

 根拠のない漠然とした、危機感の喪失に対して、番組は根底から人々を揺さぶって、パンデミックに対する覚悟を迫るものである。NHKが4月から開始した、インターネット配信「NHKプラス」において、受信契約を結んでいる人で登録すれば視聴が可能である。

 番組は、3つの観点から構成されている。第1は、新たな感染ルートである。接触感染と飛沫感染に加えて、咳や会話を通して微小な形でウイルスが飛び散る「マイクロ飛沫」がクラスターを拡大している可能性である。

 NHKと京都工芸繊維大学との共同研究の結果は「マイクロ飛沫」の恐怖を物語る。教室ほどの広さの部屋に10人ほどが集まる。1人が咳をすると、約10万個の飛沫が飛び散る。大中のものはしばらくすると、落下する。マイクロ飛沫は、5分、10分が経過しても空気のよどみのなかにあり、20分間も浮遊する。

 防止策は、窓を開けて空気を入れ替えるしかない。日本感染症学会理事長の舘田一博氏は「マイクロ飛沫は、ふたりの間で漂い続けてなかなか消えない」と指摘する。

 第2は、感染経路をたどれない患者が大都市を中心に発生している点である。「クラスター対策班」のメンバーである、東北大学教授の押谷仁氏は、感染経路が特定できない患者のうらに「未知のクラスターの存在がある可能性がある。我々が見逃しているということである。これがオーバーシュートにつながりかねない」と、指摘するのである。

 「(新型コロナウイルスは)感染者が重症化しないうちにウイルスを広げるという、生存戦略に優れているといえる。SARS(重症急性呼吸器症候群=2002年に中国で発生)よりも、よくできたウイルスだ」と、押谷氏は語る。SARSの撲滅の最前線に立った経験が、同氏にはある。


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