2024年4月17日(水)

Wedge REPORT

2020年4月3日

クラフトとしての潜在能力を生かすのか

 90年代後半に混乱と淘汰、さらにインド資本の参入などもあったが、2000年代の半ばになると、クラフトビールは再び成長軌道を描いていく。

 それまで大手のビールを扱っていた卸業者がクラフトを扱うようになったことなどが、理由だった。08年にはアンハイザー・ブッシュが、ベルギーのインベブに520億ドルで買収されてしまい、ABインベブとなる。「カリスマ経営者のブッシュ3世に対し、子息のブッシュ4世には経営の資質がなかった。事業承継ができないことが、5兆円規模のM&Aにつながった。また、ブッシュ家が離れたことでABインベブは投資会社となり、モノづくりへのこだわりも希薄になった」(日本のビール会社首脳)。

 アメリカでは、クラフトビールメーカー数は7000社を数え(18年)、数量では約13%、金額ベースでは24%程度(17年)と見られている。バドワイザーやコロナなどのメガブランドが振るわず、多様なクルフトビールが伸びている。今のところは。

 日本と同様にメガブランドが伸び悩むのは、消費者から“飽きられた”ことは大きい。クラフトビールが伸びたのは、生活者のライフスタイルの変化から個性を求める層が増えたことが上げられよう。アメリカ社会の多様化が、後押しした側面はあったろう。

 とはいえ、いつまでも伸びるかは未知数だ。特に一部には巨大化するクラフトメーカーもあり、地域に密着など本来の姿からの乖離(かいり)も始まっている。ホップをはじめ、どこまで個性的な提案をし続けられるのか、ファッションブランドの生き残りと同じようにポイントになっていく。

 ソラチエースが紆余曲折の末、全米の醸造家たちに認められていったのは、クラフトの再成長が始まり、さらに多様性が商品に求められるようになった背景があった。

 さて、サッポロがクラフトビールと名乗っているアンカーだが、日本国内での商品ラインアップ強化が一つの目的ではある。だが、本当の狙いは、サンフランシスコでの不動産開発ではないか。恵比寿ガーデンプレイスをはじめ、不動産デベロッパーとしての開発や運営の経験とノウハウを、サッポロは持っているのだから。

 不動産開発を前提に、米市場や日本市場での伝統的なクラフトビールを展開していくだろう。

 ちなみに、サッポロはその生産量から、アメリカならばクルフトビールのカテゴリーに入る。もっている潜在力を生かせば、ソラチエース以外にも新たな価値を提供できるのだが。

  
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