広域化には、複数の市町村による事業統合や浄水場などの施設の共有化、検針等の事務作業の共同化など、大小さまざまな形態がある。
一方、これまで市町村ごとに運営してきた水道事業について、組織の垣根を越える広域化の道のりは険しい。地方財政を管轄する総務省は16年、各都道府県に対し、市町村を包括する広域自治体として、水道事業の広域連携の検討を進めるよう求めたが、28もの道府県が、検討結果の公表期限である19年3月に間に合わなかった。また、結果を公表した自治体の間でも内容にバラツキが見られたため、総務省と厚労省の連名にて、再度検討すべき内容や報告様式などをより具体化した「広域化推進プラン」を示し、改めて各都道府県に22年までの報告を課した。総務省の担当者は、「市町村間で広域化について自ら調整することは難しく、都道府県のリーダーシップを期待する」と語るが、各都道府県の反応は鈍い。
広域化を検討している複数の県の担当課にヒアリングしたところ、「水道事業は市町村単位。県は広域化を促すことはできても強制はできない」「市町村ごとに水道料金が異なるため、広域化で料金を統一しようにも、結局は住民、議会、首長など自治体内での合意が必要」「予算の配分や認可作業しかやっていない県には、水道事業に関する知識や技術が乏しく、事業者とのつながりもない」など、県主導での広域化の難しさを吐露した。
もっとも、国や都道府県のサポートも重要だが、広域化によって水道事業を持続可能なものにするためには、実際に運営していく自治体こそが、その主役であるべきだ。広域化による水道事業のダウンサイジングを成功させた全国初の事例をみてみよう。
岩手中部水道企業団は14年、全国に先駆け、ダムを水源とする用水供給事業と2市1町の水道事業を統合し、同時に水道料金の統一、職員のプロパー化を実施した。統合された北上市、花巻市、紫波(しわ)町の給水面積は東京23区を超えるが、給水人口は23区の約900万人に対し、約22万人(当時)。人口減少も相まって、統合前の2市1町の財務状況は厳しく、施設や管路の更新費すら積み立てられていない状態だった。また、2市1町への水の供給を補助するために1991年に稼働した入畑ダムも、人口増加時代に計画した需要予測が大きく下振れしたことで、取水する岩手中部浄水場の稼働率は5割まで落ち、毎年積みあがる損失により、累積赤字は25億円にのぼっていた。
「ダム水源を活用し、各市町の不要な自己水源を縮小、廃止する以外に道はない。そのためには広域化により2市1町を一体として水源管理し、設備の更新計画を立てる必要があった」
広域化の旗振り役となった岩手中部水道企業団の菊池明敏参与は、北上市水道職員当時の自らの思いについて、こう振り返った。
広域化を目指した菊池氏が最初に説得した相手は、北上市長だった。自ら長期財務のシミュレーションを行い、今後確実に訪れる経営危機を正面から伝えた。2市1町の中で比較的財務状況が健全な北上市ですら30年後には大赤字となる予測に強い危機感を感じた北上市長は、花巻市長、紫波町長にかけ合い、事業統合による広域化の合意を取り付けた。12年には統合準備室が立ち上がり、制度や料金統一に関する検討を進めた。