統合後の料金について、3カ月間にわたる住民説明会を実施し、95カ所で延べ1600人の住人が参加した。統一後に料金が上がる地域の住民から反論が出ることを想定し、統合をしなかった場合の各市町の財務予測に応じた一段と高い料金を示すことで、将来リスクの「見える化」を図った結果、料金統一に対する住民からの反対はほとんど出なかったという。住民の理解を得たことで、料金改定に関する議会の承認もスムーズに進んだ。
現在、統合から6年が経過したが、その成果は顕著だ。2市1町の主な水源を入畑ダムに統一することで浄水場の稼働率は8割に上がり、小規模で不安定な各市町の浄水場を廃止することで水量・水質の安定化も図られた。広域化計画策定時に221あった各市町の水道施設は、19年9月時点で196まで縮小し、89億円の費用削減効果を生み出した。25年までにはさらに、186まで縮小する計画だという。
今後について菊池氏は「職員の高齢化が進むため、人材育成が急務。プロパー化した職員を数年ごとに異動させ、総務、経営企画、給配水業務などをひと通り経験させ、『水道のプロ』を育てていきたい」と語る。
「南部藩」再結成の動き
県境を越えた広域化
県境を越えた広域化の動きもある。08年から、青森県南部の12、岩手県北部の9の事業体が集まり、広域化に関する協議会を開催している。青森と岩手の2県にまたがるこの地域は、かつての南部藩と一致する。
主催する八戸圏域水道企業団は、協議会設置以前から、周辺の自治体で、職員不足や施設の老朽化といった問題が顕在化している一方で、水道職員が日々の漏水対応や料金徴取に追われる状況に危機感を持っていたという。
「それぞれの自治体には、将来リスクに備える人的余裕や経営体力は残されていなかった」と語るのは、八戸圏域水道企業団の古川勲副企業長。
協議会設置に関して、青森県、岩手県の了承を取り、周辺21の自治体に呼びかけ、1年足らずで開催に至った。
年4回の協議会では、料金値上げや施設の共有化など、水道事業に関する課題ごとに勉強会を開催し、解決に向け知恵を出し合う。15年には水質データ管理の共同化を実施し、今後は設備更新に合わせ、施設の廃止や共有化を図っていく予定だ。
「水道事業に関する悩みや課題を普段から近隣の市町村と共有し合うことで、いざというときに、広域化に向け手を取り合うことができる」(古川氏)
日本の水道が、将来にわたって、安全、豊富かつ安価であり続けるというのは幻想だ。事業の広域化・ダウンサイジングに向けて今行動を起こさないと、ある日突然「将来リスク」が現実化することになる。
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