2024年11月22日(金)

イラクで観光旅行してみたら 

2020年5月9日

イスラム国の子どもたち

 マルワは自分の仕事についても説明してくれた。

 「私の仕事は難民申請者や拘留された人の扱いについての仕事なの。

 でも最近は子どものイスラム国兵士や、親がイスラム国メンバーだった子どものことにも取り組んでいるのよ。4000人が刑務所にいて、1万人がまだキャンプで生活していて、そういう人たちをどうやって再び地域に帰せるかということが今の仕事なの」

 この少年兵の問題は深刻だ。自らイスラム国に入った子もいなくはないが、脅されて入ったり、ただ単に親がイスラム国のメンバーだというだけの子もいる。つまり犠牲者でもあるのだ。

 しかし、イスラム国と関係があるということで、キャンプから出られず隔離されている。更生や社会復帰のための支援を受けるわけでもない。イスラム国の子と烙印を押され、自由を奪われたままの状態なのだ。世の中に対する恨むが積もっていく。その恨み辛みが、将来この子どもたちを過激思想に向かわせるのではないかと懸念されている。

 「政府の協力はどうですか?」

 「政府はセキュリティーを優先するから、彼らを地域社会に返すことにはそれほど興味がないの。でも、放置したほうが危険だって最近では気付き始めてだんだんと協力しはじめたところよ」

 聡明なマルワは相手が何を知りたがっているのかわかっているので、具体的な数字や現在の状況を次から次へと示してくれる。この手の話題は面白くてやめられない。

 しかし、ユーフラテス川沿いの夜景が綺麗に見える屋外レストランでの旅行中のディナーにはイスラム国兵士の話を続けるのは気がひけるので、このあたりまで。

夕暮れのウル遺跡

 長い間、観光なんてでき状況ではなかったからマルワたちにとってこの家族旅行には特別な意味があったようだ。

 「ずっと前からみんなで旅行に行こうと言っていたんだけれど、予定が合わなくてちょうど今になったの。それにイラクは観光とか旅行をできる状況じゃなかったから。ようやく、ここ最近観光みたいなこともできるようになったの。ここ1年半くらいかしら、治安が落ち着いて来たのは。2017年夏にイスラム国がモスルでの拠点を失った頃から急に治安が良くなりはじめたの」

 そうなのだ、戦争していたら観光なんてしている暇はないのだ。

 「2014年にはね、私は自動車爆弾事故にあっているの。私の後ろにいた車が爆発してね。ガラスの破片が目に入って2週間、目が見えなかったんだから」

 いつも感じることだが、優しく、冗談を言って楽しませてくれるイラク人たちは、その明るさからは私が想像もできないような壮絶な体験をしている。

 私がイラクを実感できるようになるのはまだまだ遠いことなんだと思い知らされる。

  
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