そうした経緯もあり、政府の責任でデータを利用すると言われても、データ提供者としてのレピュテーションリスクをヤフーは恐れたのである。
同社は当初、データの利用目的やその取り扱いに関して厚労省側から具体的な提示がなかったためデータ提供を断った。しかし、その後の感染拡大状況に鑑みて、プライバシー保護に関する外部の有識者委員会の意見も踏まえながら再検討し、4月13日に政府とデータ提供に関する協定を結んだ。
協定では、取り組みに同意した利用者の位置情報、検索・購買履歴のビッグデータをヤフーで分析して厚労省に提供すること、厚労省はデータの利用結果について適切な時期に公表し、提供から1年以内にデータを消去すること、ヤフーがいつでも任意に提供を中止できることなどが条件として盛り込まれた。
ヤフー広報部は、今回の協定締結について、「法令上、本人同意が不要であるとされている統計データの提供ではありますが、分析対象となるデータが位置情報と検索履歴というプライバシー性の高い情報であること、また分析の目的が『感染者の集団発生が疑われるエリア』の検出であることから、万が一にもその地域への不当な差別などが発生してしまう可能性にも配慮しながら、分析結果の取り扱いについて慎重に進める必要がありました」との見解を述べた。
LINEが語る協定の狙い
国が情報を公開する意義とは
一方、新型コロナ対策で厚労省とタッグを組んでアンケート調査を実施するLINEも、ヤフーと同様に、政府とデータ提供に関する協定を締結した。8300万人の全ユーザーを対象に新型コロナ感染症の予防対策と現状の体調を調査するアンケートを実施し、その分析結果を統計データとして無償で提供する。同社の公共政策・CSRを担当する江口清貴執行役員は、協定締結の意義について「政府と企業の間でデータの利用目的や具体的な取り扱いについてコンセンサスがとれていることを協定という形で双方から発信することで、より多くの利用者に安心してデータ提供に同意してもらうことができる」と語る。
個人情報を守りながら、ビッグデータをどのように公益に役立てるかという議論を進めるには、入り口の議論だけでなく出口の議論、つまり、その成果やアウトプットも問われてくる。中央大学国際情報学部の小向太郎教授は、「政府が感染対策でどういうデータをどういう形で使っているか、その効果はどうだったのかということは積極的に公開すべきだ。国民の目に届いて初めて国民の声を聞くことができ、データ利用の意義について広く理解や協力が得られるきっかけとなる。また、後々の検証にも生かすことができる」と述べる。