困っている普通の国民とは?
1人につき一律10万円支給だから、解雇されたり、フリーランスの仕事をすべて失った人だけでなく、夫の残業代が減り妻のパートシフトが減った人にも給付されることになった。
では、普通の困っている人とは、どういう所得の人だろうか。今は多くが共働きである。夫婦とも500万円でも世帯年収は1000万円になる。それに対して、住宅ローン、保育料・教育費など固定支出がある。少しでも収入が減れば苦しくなる。給付金に所得制限を設ければ、政府は苦しい共働き世帯を助けてくれないのかと思う。このような普通の人々を助ければ、所得制限は財政的にはあまり意味がない。
図にあるように、所得1000万円以上の家計は12.2%。2000万円以上となれば1.3%。300万円未満は33.6%、1000万未満は88%である(2018年国民生活基礎調査)。財政的には、3分の1の300万円未満層だけに配るのか、1000万円未満を中間層として9割に配るのかだけが問題で、中間層に配るのであれば、高所得層に配っても配らなくても財政支出は1割しか変わらない。
預金口座を政府に教えても構わないという高額所得者には10万円を受け取ってもらえば良い。そもそも、麻生太郎副総理兼財務相は何億もの税金を払っておられるのだから、10万円もらってももらわなくても同じことである。
政治家は国民にお金を配るのが嫌いなようだが、政治家が決めた政府支出より、国民に配ってしまった方が良い場合が多い。
日本の太平洋戦争敗戦直後の財政状況と現在の財政状況が同じなのに、なぜ現在インフレにもならず、円の暴落も起きないのかと、多くのエコノミストが不思議がっている。理由は簡単である。これは政府部内の、あるエコノミストの説明だが、戦前は政府が借金をして軍艦や戦闘機を作り、皆、海に沈めてしまった。現在は、政府の借金は基本的には社会保障として国民にばら撒(ま)かれている。ばら撒かれた国民は、それを有益なことに使ったり、貯蓄したりしている。GDPを増やしたり、国債や外債を買ったりしている。だから、インフレも円の暴落も起きない。
国民にばら撒けば、博打(ばくち)や酒に使ってしまうと言う人が多いが、戦前には、軍人政治家が博打に使った。満洲映画協会理事長、甘粕正彦元陸軍憲兵大尉の辞世の句は「大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん」である。戦争という大博打をして失敗したと、自ら認めている。
一律給付は、なんら無駄なことではない。大多数の国民は、それを有益なことに使ってくれる。外出を控えて所得が低下した人々は、それによってしばらく耐えることができる。しかし、コロナ不況が続くとすると、1人10万円では足りない。それを何度も繰り返すことはできない。本気で、所得が低くかつコロナ不況によって所得が大きく減少した人々に限定して配りたいのなら、どうしたら良いのかを次に備えて真剣に考える時だ。
■コロナ後の新常態 危機を好機に変えるカギ
Part 1 コロナリスクを国有化する欧米 日本は大恐慌を乗り切れるのか?
Part 2 パンデミックで見直される経済安保 新たな資本主義モデルの構築を
Part 3 コロナ大恐慌の突破策「岩盤規制」をぶっ壊せ!
Part 4 個人情報を巡る官民の溝 ビッグデータの公益利用は進むか?
PART 5-1 大学のグローバル競争は一層激化 ITとリアルを融合し教育に変革を
PART 5-2 顕在化する自治体間の「教育格差」 オンライン授業の先行モデルに倣え
■コロナ後に見直すべき日本の感染症対策の弱点
Part 1 長期化避けられぬコロナとの闘い ガバナンスとリスコミの改善を急げ
Part 2 感染症ベッド数が地域で偏在 自由な病院経営が生んだ副作用
Part 3 隠れた医師不足問題 行政医が日本で育たない理由
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