2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月4日

 米国がイラン核合意を離脱して、5月9日でちょうど2年となった。これに際し、ポンペオ国務長官は「2年前、トランプはイラン核合意から離脱することによって世界をイランの暴力と核の脅威から守る大胆な決定を公表した」「我々が核合意にとどまっていたとした場合より米国はより安全、中東はより平和である」などとツイートした。しかし、これは全く事実に反することである。プロパガンダの類であると言っても過言ではない。

AlessandroPhoto/iStock / Getty Images Plus

 トランプによるイラン核合意離脱のお陰で不毛の2年を費やすことになり、その間、同盟諸国は多大の迷惑を蒙った。イランは危険な挑発行動にも出たが、相手が軍事的に圧倒的な優位にある米国ということがあって、それなりに計算した行動に終始したと思われる。イランの核への野心と周辺地域を不安定化する行動をどう封じ込めるかの課題は残されたままであるが、米国の大統領選挙の結果を待たざるを得ない。新型コロナウイルスの脅威と経済的苦境もあり、イランも当面それまでを凌ぐことを考えていよう。英仏独3国はイランの核合意不履行の問題を核合意に規定される紛争解決メカニズムに持ち込んだが、このプロセスが安保理による制裁の復活に繋がらないよう時間稼ぎをしている様子である。

 しかし、11月までに一波乱ありそうな様相である。即ち、イラン核合意の発効に伴い対イラン制裁は解除されたが、武器禁輸に係わる安保理決議1929は核合意を承認した2015年の安保理決議2231によってその内容が5年間延長された。その有効期間が来る10月18日に切れ、この制裁は解除される。トランプ政権はこれを快しとせず、無期限に延長することを狙っている。

 とはいえ、その趣旨の安保理決議を提案してもロシアと中国の反対票で成立する見込みはない。そこで考え出した理屈は、米国は依然として法的にはイラン核合意の参加国であり、従って、上記の安保理決議2231に規定される制裁復活(snapback)の仕組みを利用出来るというものである。この仕組みによれば、合意の重要な不履行があると認める時はいずれの参加国も安保理に問題を提起できる、その場合、安保理が制裁の解除継続の決議を採択しない限り、制裁が自動的に復活する。つまり、制裁の解除継続を決議しなければならなので、米国の拒否権で解除継続を阻止出来ることになる。但し、この仕組みによれば、武器禁輸だけでなくすべての制裁が復活する。

 核合意を離脱した米国が今頃になってなお参加国だと主張する法的根拠がどこにあるのか全く理解出来ないが(安保理決議2231が変更されず米国の名前が残っていることを根拠としているらしいが屁理屈の類であろう)、ポンペオは「空想的な法律論と言う向きもあるが、解釈の問題だ」と述べている。ロシアと中国はもとより、英仏独が都合の良い時だけ選択的に参加国だという米国の勝手な主張に同調するとは思えないが、どうなるのか分からない。

 仮に米国のゴリ押しが通り、制裁が復活するようなことがあれば、イランが核合意に残留することはあり得ず、核合意は名実ともに崩壊するであろう。そうなって初めてイランは新たな合意の交渉に応ずることになろうと言う向きがトランプ政権にはあるらしい。驚愕すべきことである。

  
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