世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月16日

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 5月25日付のProject Syndicateで、フィッシャー元独首相が、欧州にとり対中関係のカギは中国との戦略的関与と中国への服従を混同しないことで、中国への経済的、技術的依存は回避すべきだと述べている。

Yurchello108/iStock / Getty Images Plus

 著者のヨシュカ・フィッシャーは、ドイツの緑の党の元指導者で、1998年から2005年までシュレーダー(SPD)政権の副首相兼外相を務めた。その経歴からもっと「緑色」の議論をするのではないかと予想したが、一党独裁など中国には厳しい疑念を突き付けるなど極めて現実主義的な対中関係論を展開している。それは説得的であり、基本的に異論はない。欧州の対中観は、最近徐々に現実的に修復されて来てはいるが、このように一層現実的なものになることが期待される。

 フィッシャーの主な論点は、次の2点である。

1.欧州は中国に対し戦略的競争を基礎に長期的封じ込めを追求する政策を取るべきだ。一党独裁政治の中国は規範的に言っても欧州の真のパートナーとは成りえない。

2.欧州は経済的、技術的に中国に依存することを避けるべきだ。

 フィッシャーの対中警戒心は予想以上に強い。ドイツ経済自体が中国に依存してきてしまったことや、今回、新型コロナウィルスの中国からの支援においてマスクや医療機器に不良品が多かったことにも起因しているのかもしれない。

 フィッシャーの議論で印象的なことは、「しかし中国は既に無視するには余りに大きく、余りに成功し、余りに重要な存在である。現実をみれば協力が必要である。カギは、中国との戦略的関与と中国への服従を区別する(混同しない)ことだ」とのくだりである。正直で、正にそうだと思う。「競争と関与」に勝る代案は見当たらない。それにもかかわらずトランプ大統領は全面対決で行こうとしている。そしてその結末について、戦略的見通しも持っていない気配だ。中国が発展し大きな存在になっているという新たな現実を受け入れることと、中国の振る舞いに抵抗することは両立する。ただし、その「現実」に1つ問題があるとすれば、中国のサイズそのものである。それにいかに対処すべきか、なかなか難しい問題である。中国の振る舞いについては、民主主義国が結束して対処することが重要だ。米国はこれまで世界の新たな歴史的現実を受け入れることには早く、素直だったと言える。それは米国らしいことでもあったし、米国の力を裏付けるものでもあった。

 中国の振る舞いは益々問題となっている。中国のウイルス対応やその後の外交活動(ナショナリスティックかつ強硬な物言いへの転換、WHO との関係等)については既に多くの批判が出ている。そういう状況で、かつ各国がウイルス対応に忙殺されている間に、中国は東シナ海や南シナ海で強硬な行動(領土主張のための行政区の設定や艦船の運用など)を続け、5月28日には全国人民代表大会で、北京の中央政府による香港国家安全法の制定を決めた。国際法無視の強権主義と言われても仕方がない。今、中国にとり最も有益なことは、鄧小平の「韜光養晦」路線に戻ることではないかと思うが、習近平政権はその反対に向かっている。

 今回、新型コロナウィルスのパンデミックにより、世界秩序が変化するかどうか、世界で多くの議論がされている。フィッシャーの考えは必ずしも明確ではない。

 しかし、今回、ウイルスにより世界の国々の全てが程度の差はあれ等しく損害を受けており、その意味で国々の相対関係は大きく変わっていない。また世界の機構やルールも大きく変わっていない。ヒトの移動や仕事の仕方、産業の比較優位、ナショナル・モラール等は大きく変化するものと思われるが、今後の世界が今までの世界と根本的に違った世界になるということはないのではないか。むしろ、リチャード・ハースが言うように、世界秩序の変化の動きは既にパンデミックの前から起きており、今後もそれが続く、あるいは増幅されるということではないだろうか。パンデミックを機に、トランプ的自国第一主義に代わって再び国際協力の強化が図られることを期待したい。

  
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