米政府は1年前、米企業がファーウェイに部品や機器を売ることを禁じたが、抜け穴が多く有効ではなかった。そこで、米商務省は5月15日、世界中のどこのメーカー、工場であれ、米国の機器を使って作るチップをファーウェイに売ることを禁止した。
これは単にファーウェイに制裁を加えるにとどまらず、コンピューターチップの世界的供給網に大きな影響を与える重要な決定である。コンピューターチップは複数の半導体集積回路の集まりで、半導体はパソコン、スマートフォンなど我々の日常生活に欠かせないものであるのみならず、高精細映像や、超高速データ通信など最先端の分野でも重要な役割を果たしている。その生産は米国、中国のみならず台湾、韓国、東南アジアなど世界各地で行われており、それが供給網で結ばれていた。今回の米国の決定はこの供給網を分断するものであり、コンピューターチップの供給が米国と中国の2つの勢力圏に分断されることになる。
世界有数の半導体メーカー、台湾のTSMCは、米アリゾナ州に工場を建設すると発表した。台湾の置かれた戦略的地位から言って、台湾が安全保障の最大の庇護者である米国を選んだのは当然だろう。他方、東南アジア諸国にとって選択は容易でなく、今回の米国の決定は東南アジア諸国を中国に近づけるリスクも考えられる。
米国政府はファーウェイを米国の安全保障にとっての脅威であると言っている。ファーウェイは中国政府と切り離せない関係にあり、米国政府は中国政府がファーウェイを通じて個人情報にアクセスできると考えている。またファーウェイの通信技術が情報を盗み取ることを懸念しているようである. 米政府は主要同盟国にファーウェイを使わないよう働きかけてきたが、それはファーウェイによる情報の取得を懸念してのことであった。ただ、NYTの解説記事‘Huawei Is Winning the Argument in Europe, as the U.S. Fumbles to Develop Alternatives’は、ファーウェイが欧州に電気通信機器を提供してきた過去20年間に、ファーウェイが機微な情報を得たというはっきりした米国の情報はないとしている。他方、6月初めに、グーグル社のエリック・シュミット元CEOは、BBCラジオに対し、ファーウェイの通信機器を通じた中国当局への情報流出は間違いない、と断言している。ファーウェイを使うことにどれほど安全保障上の危険があるか正確なところは分からないというのが実情のようである。
ファーウェイをめぐる米中の対立の本質は、基本的にハイテクをめぐる覇権争いである。半導体製造技術では米国が最先端を走っており、米国の輸出で半導体は自動車、航空機、精製石油に次いで4位を占めている。今回の措置は、中国が半導体分野で米国に追いつくことを遅らせる効果がある。しかし、技術はいずれ追いつかれる。米国の優位がいつまで続くのか分からない。他方、5G では中国がリードしている。1つの課題は、米国における5Gの製造コストを安くすることである。日本であれば経産省が音頭をとることも考えられるが、米国では産業政策はなじまない。結局、米国の関連民間企業が努力するほかないということになるのだろう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。