2024年11月21日(木)

サムライ弁護士の一刀両断

2020年7月9日

なぜ「アマビエ」を商標登録しようとしたのか

 今回、電通は騒動が広まるのを見てすぐに商標出願を取り下げました。その際、電通は「アマビエという名称を独占的・排他的に使用する意図はなかった」と説明しています。

 商標権は、特定の名称や画像を独占的・排他的に使用する権利ですので、電通の説明は一見すると不可解なようにも思えるのですが、実は、そうとも言い切れない事情もあります。

 「アマビエ」について、電通が商標登録できるのであれば、ほかの会社だって登録できるはずです。そして、一旦登録された商標は、少なくとも対象として指定した商品やサービスについては、他の者が重複して登録することはできません。

 つまり、電通よりも先に登録した者がいる場合、その会社が「アマビエ」を自社の商標として独占的に使うことができてしまいます。

 さらに、中にはライセンス料を請求するなどの利益目的で商標を登録しようとする会社もあります。

 当コラムでも、ピコ太郎氏の「ペンパイナッポーアッポーペン」について、まったく無関係の会社が商標出願をしていた事件を取り上げたことがあります(『狙われたPPAP、「商標ビジネス」は許されるのか?』)。そのピコ太郎氏とは無関係の会社は、ライセンス料による利益を得る目的があることを半ば公言しています。そのようなライセンス料目的の会社が先に商標権を取得した場合、アマビエを使ったビジネスに支障が生じかねません。

 電通としては、アマビエを自分たちだけで独占するつもりはないにしても、「ビジネスに利用するにあたり、先に権利を取られては困るので、とりあえず自分たちで押さえておこう」と考えたのではないかと推測されます。

知的財産権に敏感に反応するネットユーザー

 このような対応は一見すると理に適っているようにも思えるのですが、昨今の情勢を踏まえると悪手となりかねません。

 アマビエはSNS等で自然発生的にブームとなったものです。ブームの当事者であるネットユーザの意識としては「誰のものでもない」あるいは「みんなのもの」という意識が強いでしょう。

 これに対して、「アマビエ」を商標登録した場合、たとえ本意でないにしても、「アマビエ」の文字列を、独占的・排他的に使用する権利が法律上与えられます。ネットユーザが「自分たちの共有財産を大企業が横取りしようしている」と受け取るのは無理もありません。

 特に昨今の創作界隈では、SNSはもちろんのこと、作品を販売できるネットショップや創作支援の投げ銭サービス、クラウドファンディングなど、創作活動に関連したサービスが急速に拡大しています。今や、ごく一般の人が作品を発表したりマネタイズしたりするための環境が整ってきていますし、その分だけ著作権や商標権といった知的財産権に関する意識も急速に高まっています。

 例えば、電通が商標出願の対象としようとした商品には、「インターネットを利用し受信し及び保存することができる画像データ」が含まれるのですが、自分の楽しみのため「コロナ除けアマビエ守り」といった画像を販売しようとした人に対して販売の差し止めや名称の変更を申し入れることも、その気になればできかねません。

 たとえ電通にその気がないとしても、アマビエを創作活動として楽しんでいる人たちが警戒し反発するのも無理のないことでしょう。特に、ネットを介したビジネスを展開したいのであれば、ネットユーザの反発を買っては元も子もありません。


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