地方大学の関係者は「1県に1つ国立大があることで教育機会が均等になる」「若者が地域に残る」と意義を強調する。とはいえ、その県の高校生が自県の大学に進学する割合(自県進学率)をみると、国公私立合わせても和歌山で約11%、鳥取で約13%など、地方の学生の多くが近隣の都市部へと流出している(下図)。
すでに多くの学生が都市圏へ動いている以上、県境を超えた再編統合をしていかなければ地域人材の育成という大義も揺らいでしまう。
平成の30年で「増殖」し続けた大学。これまで文科省は、「ポストドクター等1万人支援計画」「留学生30万人計画」など日本の大学の研究力・国際競争力強化のため数を増やす施策を打ち続け、大学のグローバル化やマネジメント強化など「前向きな」改革ばかりを進めてきた。
他方、18歳人口の減少に歯止めがかからない中、箱ものばかり増えるアンバランスな現状をどうするか、その改革にはほぼ手を付けずにきた。
近年「日本人がノーベル賞を取れなくなる」「世界の大学学術ランキングにおける日本の存在感が薄くなっている」などの懸念が高まっている。国際的競争力を強化すべく、限られた資源をできるだけ研究に回し、競争力を備えた大学への支援を強化するなど、資金を戦略的に振り分ける必要がある。
そのためには、18歳人口減少下における大学の存在意義の見直しが急務だ。このままの形で大学を残すのではなく、国公立大の県の枠組みを越えた再編統合や定員の減枠、定員割れの続く赤字私大の市場撤退の促進など、質を高めながら量的規模を縮小し、浮いたコストを少しでも教育の質の向上に付与する必要がある。
縮小一途の教育財政
再編統合加速させる制度を
大学の適正規模はどうあるべきか─。小誌の取材に対し、国公私立問わず多くの大学関係者は異口同音に「明らかに数が多いと感じる」と答えた。だが「立場上それを表立って言うことができない」という声も聞かれた。
文科省の担当者も「将来的な定員削減など規模の適正化が必要」としながら「国立だけ定員を縮小すれば、学生の選択肢のバランスが崩れる。公立、私立とともに歩調を合わせる必要があるが、あくまで公立は自治体、私立はその法人と、設置者の判断が優先される。現在の制度では我々はそこに踏み込むのは難しい」と話す。
だが、現実を直視すれば、今こそ国は各大学とも連携しながら量的規模の縮小を円滑に進める法整備など、今後の方針を示すべきだろう。
定員に満たない国立大や赤字私立大の運営、法人解散後の処理など、「現状放置」の先にある〝リスク〟のツケを払わされるのは国民である。
Wedge8月号では、大学の再編に関してさまざまな分野の話題についてレポートする。PART2では、定員割れする地方の私立大学に税金が投入され、公立化という「延命」が図られる現場に迫る。
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■大学はこんなにいらない
Part 1 日本の研究力向上に必要な大学の「規模」の見直し
Part 2 経営難私大の公立化にみる〝延命策〟の懸念
Part 3 進むのか 国立大学の再編統合
Part 4 動き出した県を越えた再編 まだ見えぬ「効率化」へのビジョン
Part 5 苦しむ私大 3割が定員割れ 延命から撤退への転換を
Column 地方創生狙った「定員厳格化」 皮肉にも中小私大の〝慈雨〟に
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