2023年1月28日(土)

WEDGE REPORT

2020年8月6日

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外国人にも適用される第38条

 国家安全維持法の第38条には次のような文章がある。「香港特別行政区の永住民の身分を備えない人が香港特別行政区で香港特別行政区に対し、本法に規定する犯罪を実施した場合は本法を適用する」……簡単に言えば、日本人が日本で国家安全維持法に違反し、香港の管轄権に入ったら逮捕される場合があるということだ。

 日本の場合、香港を好きな人も多いが、コアな香港ファンが少なくない。彼らにとって香港のためと思って行ってきたことが突如、違法になり、好きだった香港に行く事すらリスクになる可能性が出てきた。香港に行くのも危険が伴う可能性が出てきたのは悪夢だろう。

 「歴史の長い法律でしたら、判例があってある程度推測できますが、この法律は施行されたばかりですので何とも言えないというのが正直なところです。ただ、いちいち外国の案件を摘発していたらキリがないでしょうし、逮捕者の収容人数の問題がでてくるでしょうから……」、とよほどのことない限りは大丈夫な感じだ。

 「この法律が、コモン・ローであれば、世界のコモン・ロー適用地域の判例で補う事ができるので、容易に予測できるのですが、これは中国法です。最近、(香港向けに)国家安全維持法の英語版も出ましたが、中国語版が優先され、なおかつ解釈権も中国にあります。インターネットのニュースで『地雷がどこに埋まっているのかがわからない』と言うのを読みましたが、そこがこの法律の難しさだと思います」

国家安全維持法は逃亡犯条例改正案の“完成形”

 廣江准教授が懸念しているのは外国人裁判官の減少についてだ。終審法院の裁判官は22人いるが、香港人のほかにも、イギリスやオーストラリアといった外国人裁判官がいる。

 「最近、国籍に偏りがあることから同じコモン・ローを採用しているカナダから1人採用する事になりました。ちなみに、コモン・ロー適用地区のうちイギリスでは自国のほかに兼任が可能です。しかし、カナダの政治家から香港の裁判官を辞任するよう求められたのです。政治家としては中国でつくった中国法である国家安全維持法について、自国の最高裁の裁判官が、結果的に香港の自治を制限する判決に関わる可能性を懸念したのです。

 裁判官は(政治やイデオロギーとは関係なく)法律の文言に基づいて判決を下しますから、それが人権を侵す判断であれば裁判官にとっても不名誉なことです。制定された法律では外国人裁判官を除外するという文章はないのでホッしたのですが(法制化の過程で、外国人裁判官は使わないという文章が盛り込まれるのではないかという話があったが、国際的な非難を懸念してか、そうはならなかった)、こういった流れがきてしまうと、香港の司法の独立やコモン・ローの中の香港の役割はどうなるのかという心配が出てきました」と香港裁判官の研究の立場から感じたことを話す。

 「もう1つは、前述でも少し話しましたが、やはり中国の法律と香港の法律に矛盾が出てきたことです。国家安全維持法の第62条の『香港特別行政区の現地法の規定とこの法律が一致しないときには、この法律の規定を適法する』がそうですし、第60条の『駐香港特別行政区国家安全維持公署とその人員による、この法律に基づく職務執行行為は、香港特別行政区の管轄を受けない』と書いてあるので香港の法律の外にいるわけです」

 「逃亡犯条例改正案は、中国で刑事裁判を受けたくないということであれだけのデモが発生しました。その時の条文の改正案をみれば、中国を含む地域からの要請に対し、引渡しの可否を個別に行政長官に判別をしてもらう形でした。しかし、国家安全維持公署が設置されることで、行政長官とは関係なく特権的な地位を与えられた署員が対応しますから“逃亡犯条例が完成した”という印象を受けます」と言う。

 「他にも第42条には原則保釈を認めてはならないという文面もありますし、陪審員制度はコモン・ローの伝統ですが第46条には陪審員なしの裁判も可能です。ここまであると『香港基本法と国家安全維持法はどちらが最高の法律なの?』と思えてしまいます」


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