2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月19日

 中国は、国際社会の反対を無視して、香港住民に対する締め付けを着々と強めている。

 7月31日には、新型コロナウイルスを理由に、9月6日に予定されていた立法会選挙を1年延期することを決定した。余りに強硬、乱暴と言わざるを得ない。しかも1年も先に延期するということを見れば、民主派抑え込みという政治的意図と決意が理由としか考えられない。コロナウイルスは言い訳であり、そこには微塵の慎重さも感じられない。民主派は9月選挙に向け着々と準備を進めていたが、7月30日に香港政府は少なくとも12人の民主派候補につき2020年立法会選挙への立候補資格なしとの措置をとった。立候補資格をはく奪すること自体、非民主的である。

Oksana Kuznetsova/iStock / Getty Images Plus

 香港警察は、8月1日までに国家安全維持法に違反した容疑で英国、ドイツ、米国に滞在する民主活動家6人を指名手配した。香港に入れば直ちに逮捕される。これも強硬な措置だ。英、米、仏などが犯罪引き渡し条約を停止するには理由がある(我が国は米、韓としか犯罪人引き渡し条約を締結していない)。今後外国人が香港で逮捕されることになれば大きな問題になるだろう。

 8月10日には、香港の民主派の新聞「蘋果日報」などを発行するメディアグループの創業者の黎智英氏、2014年の民主化運動「雨傘運動」の指導者として有名な周庭氏(「民主の女神」とも呼ばれる)を含む10人が、国家安全維持法違反の容疑で逮捕された。

 香港によるこれら一連の措置は1984年の英中合意に違反する。中国による国際約束や国際法軽視の姿勢、国際法に対する恣意性が窺われる。それが国際社会の不信を高めることは当然である。国際社会での良き一員としての資質も問われる。少なくとも2047年までのレジームは英中合意に従ってやるべきものだ。北京が香港の手続きを飛ばして、香港国家安全維持法を直接制定するのであれば一方の当事者たる英国にもアプローチがあってしかるべき筋のものだ。すべてが国際基準に合っていない。

 いずれにせよ香港問題は一線を越え、新たな段階に進んでしまった。国際社会は中国に出し抜かれた。米国の対応にもトランプの無関心の発言など種々問題があった。最近になって香港や新疆など人権問題に種々制裁を課したり、声高な発言(ポンペオを中心に)をしているが、やや遅きに失する。もう既成事実が出来上がってしまった。これからできることは事後であっても中国へのコストを高めることしかない。しかし、米国が香港自治法により取った対香港貿易特恵待遇の撤回などは中国、香港にとっては痛い措置となるものであり、その運用を注視したい。なお、北京にとっての香港の経済的重要性が以前と比べれば下がっていることも今回北京の強硬な対応を容易にしているのであろう。

 8月2日付けのウォールストリート・ジャーナル紙の社説は、米国は香港住民に永住権を与えるべきであると主張する。重要な提案である。状況がここに至った以上、粛々と必要な措置をとっていくべきであろう。日本も香港の有能な人材の定住等を受け入れていくべきだ。

  
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