2022年8月10日(水)

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2020年9月24日

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坂元晴香 (さかもと・はるか)

慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室特任助教

札幌医科大学医学部、ハーバード大学公衆衛生大学院(公衆衛生学修士)、東京大学大学院医学系研究科(国際保健学博士)修了。聖路加国際病院、厚生労働省、東京大学国際保健政策学教室等を経て、20年4月より現職。世界保健機関(WHO)西太平洋事務局コンサルタント兼任。

3密の回避はあくまで
クラスター発生の予防策

 この新型コロナに対して、日本ではこれまでクラスター対策と自粛要請を対策の中心に据えてきた。その理由は、2月~3月の初期の頃に発生した新型コロナ患者の動向を分析したところ、約8割の人は二次感染を起こさず(次の人に感染を連鎖させず)残りの2割の人がさらに感染を拡大させていたという特性が分かったことによる。

 さらに、この2割の中のごく一部の人が、〝スーパースプレッダー〟とされる、複数の人に同時に大量の感染を引き起こすことも判明した。この、特定の1カ所で一度にたくさんの患者が発生すること(厚労省では5人以上と定義している)をクラスターの発生としている。

 その上で、過去にクラスターが発生した場所を詳細に分析すると、いわゆる3密(密接、密集、密閉した空間)で発生していることから、この3密を回避すれば、感染力のある感染者がいてもクラスターの発生を防げることが分かり、それを中心において対策が進められてきた。

 ここで大切なことは、個々人の間での感染予防はあくまでもマスクや手洗い(接触・飛沫感染対策)であり、3密の回避はクラスター発生の予防であるということだ。一部、3密を回避していれば感染そのものを防げると思っている人もいるが、それは違う。

 さて、このようなクラスター対策を中心に据えた日本の対策は、欧米諸国のような強烈なロックダウンを伴わずして、とりあえずの初期の流行の収束には成功した。欧米諸国と比較して人口当たりの死者数が桁違いに少ないのはもちろん、同じアジア各国と比較しても、日本の突出して高い高齢化率を加味すれば、初期対応としてはある程度うまくできたと言えるであろう。

 しかしながら、7月に入った頃から東京を中心に流行の再燃がみられ始め、そこから全国各地に飛び火する形で感染者が拡大した。緊急事態宣言の解除とともにできるだけ社会経済活動を再開させたいという希望とは裏腹に、収束の兆しはみえず、それによる恐怖も広がり、社会経済活動も思うように再開できずにいる。

 重要なのは新型コロナの特性を踏まえると、感染者数=PCR検査陽性者数という指標だけをみても、その対策はしきれないということである。

 重要な指標の一つに実行再生産数(Rt)が挙げられる。これは、一人の人が何人に感染を拡大させているかをみる指標で①Rt>1であれば感染は拡大傾向、②Rt=1であれば横ばい、③Rt<1であれば感染は収束傾向にあるとみることができ、③Rt<1の状態を目指すことが重要である。実のところ日本は、PCR検査陽性者数は緊急事態宣言解除の前後で大幅に減ったが、このRtについては一瞬1を下回ったものの、緊急事態宣言の解除後からすぐに全国で1を上回っている状態が2カ月以上続いた。

 5月25日、これ以上の継続は経済が壊滅するという声の高まりを受け、政府は緊急事態宣言を解除した。筆者の個人的考えではこのとき、Rtが常に少なくとも1を下回っているか注視しつつ、さらに約2週間程度、緊急事態宣言を継続していれば、その後少なくとも夏の間の流行の再燃はなく、「Go To トラベルキャンペーン(以下、Go To)」や夏の旅行等をはじめとしたさまざまなな社会経済活動の再開がもう少し可能だったのではないかとみている。

 ただし、諸外国をみると、一部の国では〝封じ込め〟を目指した国もあるが、多くの国では社会経済活動の再開に伴い感染の再流行がみられている。経済活動への影響を考えると繰り返しのロックダウンや自粛要請は現実的ではなく、多くの国ではある程度の感染者数は許容しながら徐々に社会経済活動を再開させていくところに落ち着いている。

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