WEDGE REPORT

2020年9月24日

»著者プロフィール
著者
閉じる

坂元晴香 (さかもと・はるか)

慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室特任助教

札幌医科大学医学部、ハーバード大学公衆衛生大学院(公衆衛生学修士)、東京大学大学院医学系研究科(国際保健学博士)修了。聖路加国際病院、厚生労働省、東京大学国際保健政策学教室等を経て、20年4月より現職。世界保健機関(WHO)西太平洋事務局コンサルタント兼任。

医療提供体制の問題は
医療従事者の確保にある

 一方で、社会経済活動を活発化させていく上で問題となるのは、現時点でハイリスクとみられる高齢者へのケアと、医療提供体制である。

 高齢者については、単に「高齢者を隔離する」という単純な話にはならない。高齢者と最も接点が多いのは彼らと同居する家族や、医療・介護施設でのスタッフであろうが、市中で感染が蔓延すると、彼らを介して高齢者にも感染が伝播する可能性がある。また、高齢者が社会との隔絶を強いられることによる認知・精神機能の悪化といった問題もある。単に新型コロナのコントロールという観点だけでなく、高齢者にとってより良い生活とは何かという大きな視点が必要になる。

 医療提供体制については、病床数の空きや病床占拠率をもって医療の逼迫状況が語られることが多いが、重要なのは、そこで働く医療従事者の確保はどうするのかということである。

 かねてから、日本の救急集中治療を担う医師は不足しており、その影響は地方で特に顕著である。また、重症患者の対応には医師だけでなく看護師や臨床工学士などさまざまな医療職が必要となるが、このような高度な専門職はすぐに育成できるものではない(医師免許を有していても全ての医師が人工呼吸器管理に長(た)けているわけではなく、そのためには数年程度のトレーニングが必要となる)。

 20年初頭から続く新型コロナの対応に、現場の医療従事者の疲弊は最大に達しており、彼らに対する金銭的補償やメンタルケアの必要性も高まっている中で、単に病床の空きだけで医療の逼迫を判断することは、彼らのモチベーションをさらに下げかねない。

 新型コロナは、高齢者や基礎疾患がある人にとっては、特効薬やワクチンがない現状において、怖い病気である。だからこそ、急激な医療現場への負担の増加を避けつつ、社会経済活動を活発化させていくために、個々人が社会の構成員として、手洗いをしたり、密閉空間ではマスクを使ったり、少なくとも発熱があるときには人と接触するのを避けたりするなど、正しい感染予防を行っていくことが必要である。

 大切なことは、感染予防をわれわれの生活に根付かせつつ、コロナ禍前とまったく同じ形の社会経済活動にただ戻ろうとするのではなく、これを機に新たな社会を作っていくことである。

 今こそ、個々人の正しい理解と冷静な行動が求められている。

Wedge10月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
新型コロナ  こうすれば共存できる
Part 1  ・新型コロナは〝ただの風邪〟ではない でも、恐れすぎる必要もない
           ・正しく学んで正しく恐れよう! 新型コロナ情報を読むレッスン
           ・医療現場のコロナ対応は改善傾向 それでも残る多くの〝負担〟
Part 2  ・「してはいけない」はもうやめよう 今こそ連帯促す発信を
           ・コロナショック克服へ 経済活動再開に向けた3つのステップとは
           ・なぜ食い違う? 政府と首長の主張
           ・動き始めた事業者たち 社会に「価値」をもたらす科学の使い方   
Part 3    煽る報道、翻弄される国民 科学報道先進国・英国に学べ  
Part 4    タガが外れた10万円給付 財政依存から脱却し、試行錯誤を許容する社会へ    
Part 5    国内の「分断」を防ぎ日本は進化のための〝脱皮〟を

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆Wedge2020年10月号より

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

関連記事

新着記事

»もっと見る